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千葉地方裁判所 昭和51年(行ウ)15号 判決 1982年6月04日

原告 高橋進

被告 流山市固定資産評価審査委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告が昭和五一年五月一〇日、別紙物件目録記載の土地、建物にかかわる昭和五一年度固定資産評価額および課税標準額について行なつた不服審査の申出に対して、被告が同年七月二〇日をもつてなした棄却決定は、これを取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、別紙物件目録(一)記載の土地、同(二)(三)記載の建物(以下「本件土地建物」という。)を所有し、これを居住用として現に使用している。

2  流山市長は、本件土地建物に対する昭和五一年度の固定資産税の評価額(以下「本件評価額」ということがある。)および課税標準額を末尾添付の別表(一)(以下末尾添付の別表(一)ないし(四)について、単に「別表(一)ないし(四)」のようにいう。)のとおり決定し、これを昭和五一年度固定資産課税台帳に登録し、同年四月三〇日まで縦覧に付した。

3  原告は、右登録事項に不服があるので、法定の期間内である昭和五一年五月一〇日、被告に対し、地方税法(以下、地方税法を単に「法」ということがある。)四三二条に基づき審査の申出をしたところ、被告は同年七月二〇日右審査の申出を棄却する旨の決定(以下「本件決定」という。)を行なつた。

4  しかし、本件評価並びに審査手続には以下に述べる違法事由が存するから、これを看過して原告の審査申出を棄却した本件決定は違法である。

(一) 概要は次のとおりである。

(1) 固定資産評価基準の違憲性

<1> 固定資産評価基準の内容からみた違憲性・違法性

<2> 立法形式からみた固定資産評価基準の違憲性

<3> 固定資産税の沿革および性質からみた固定資産評価基準および地方税法三四九条一項の違憲性

<4> 固定資産評価基準の不合理性と租税法律主義違反

(2) 本件固定資産評価の違法性

<1> 「どんぶり勘定」の評価額決定

<2> 固定資産評価基準の評価方法

<3> 本件評価決定手続の実態

<4> 固定資産評価基準違反の評価決定

<5> 本件土地の評価額推移の実態

<6> 固定資産評価基準にもしたがつていない違法

(3) 本件評価決定における手続違反(実地調査の欠陥)

(4) 審査手続の違法性

<1> 被告固定資産評価審査委員会の構成の不公正

<2> 審査決定の理由不備

そこで、以下これを詳述する。

(二) 固定資産評価基準の違憲性

(1) 固定資産評価基準の内容からみた違憲性・違法性

<1> 地方税法三四九条一項は「基準年度に係る賦課期日に所在する土地又は家屋………に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋の基準年度に係る賦課期日における価格………で土地課税台帳若しくは土地補充課税台帳………又は家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳………に登録されたものとする。」と規定し、さらに法三四一条五号は「価格」とは、「適正な時価をいう。」と定めている。

右規定にいう「適正な時価」の決定について、法四〇三条一項は、「市町村長は、第三百八十九条又は第七百四十三条の規定によつて道府県知事又は自治大臣が固定資産を評価する場合を除く外、第三百八十八条第一項の固定資産評価基準によつて、固定資産の評価を決定しなければならない。」と定め、法三八八条一項は、「自治大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(以下「固定資産評価基準」という。)を定め、これを告示しなければならない」としている。そして、地方税法三四八条一項の規定を受けて定められた自治省告示である固定資産評価基準(昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号。以下単に「基準」ということがある。)は、固定資産税の課税標準となる土地の評価は、売買実例価格から求める正常売買価格に基づいて適正な時価を評定するという方法によるとしている。

流山市は右固定資産評価基準に従つて本件土地の評価をなし、固定資産評価額および課税標準額を決定したものである。

<2> 固定資産評価基準は右に述べたとおり土地の価格について売買実例価額を基準として評価する方法をとつているため、近隣土地の売買実例(土地の取引価格)によつて当該土地に対する固定資産評価、課税標準は当該土地所有者の土地所有目的や土地利用の形態にかかわらず一律的に直ちに影響を受ける仕組となつており、したがつて、たとえば近隣土地の売買実例が高騰すれば、当該土地所有者に売買の必要がなく、またその意思がない場合でも、当該土地に対する固定資産評価、課税標準は自動的に引きあげられることとなる。

しかし、同じく土地とはいつてもその所有目的、利用形態、所有の主体等はさまざまであり、とりわけ重要なのは当該土地が所有主体にとつてその所有目的、利用形態からして生存権的財産か非生存権的財産(資本的財産)かの区別である。

すなわち、等しく財産権といつても、資本的ないし投機的土地所有と生存権的土地所有とに区別される。そして資本主義の商品交換社会のもとで、土地を取得する場合には、その時点における交換価値を対価とせざるを得ず、この商品としての土地が交換価値を有するところから必然的に生ずる土地投機が深刻化すると、本来的な保障の対象たるべき生存的土地利用そのものが困難となるという事態を発生させ、生存的土地利用を守る必要性が増大せざるをえない。わが国においては政府の住宅政策の貧困さにみられるように、生存的土地利用保護の施策が不備であつたため、生存的土地利用をめざすにすぎない国民も、生存的土地利用を獲得する前提としてやむをえず土地所有者になろうとする傾向が存在する。彼等は、土地所有権を取得することにより、結果として土地の交換価値を把握することになるが、土地を購入した後においては、他に売却はあり得ず、自からの人間としての生活や生存を確保するという生存権目的にのみ土地を使用するものであり、あくまでもここにその所有権取得の目的が存するものである。この点において、いわゆる資本的ないし、投機的土地所有とは、全く異質のものであつて、憲法上の人権として保障されるべき理由が見出されるものである。

それゆえ、今日財産権をめぐる保護と制限の立法を考える場合、生存権的財産と非生存権的財産の区別は憲法上要請される基準であり、生存権的財産権は非生存権的財産と異り強い保護を必要とする。すくなくとも、生存権保障に基礎をおくものとして憲法上優位の価値を認められる生存権的財産を非生存権的財産と同次元においてとられることは憲法上の要請に反するものであり、このことは財産権制限立法の憲法適合性を検討する場合に不可欠の前提となる。

固定資産税の賦課は、課税権の発動として行われる固定資産所有者に対する財産権の制限にほかならないのであり、財産権における生存権的財産権と非生存的財産権の区別は本来立法において十分に考慮されなければならないところである。

<3> 原告による本件土地所有は企業による土地所有や投機的目的による土地所有と異り、あくまでも居住を目的とする、いわゆるささやかなマイホーム敷地としての土地所有であり、勤労者として生活を営むための最低必要限度のものである。このようなものとして本件土地を所有し、利用する原告にとつては、近隣地売買により形成される売買実例価格なるものは無縁のもので、原告にとつては本件土地の価値は専らその利用形態にある。

以上のような性質をもつ本件土地はまさに生存権的財産そのものであり、このような生存権的財産について、非生存権的財産を含む売買実例価額を基準として土地の評価を決定するものは著しく合理性を欠くものであり、結局において生存権的財産と非生存権的財産を同列に扱う不合理をおかすこととなる(また都市計画法、国土利用計画法、あるいは農地法、農業振興地域の整備に関する法律等各種特別法の利用制限が、生存権的財産についての売買実例価格を阻んでいる点が参酌されねばならない)。

土地の評価にあたつては、固定資産評価基準の定めの如く、売買実例価額を基準として一律に時価を評定するのではなく、土地の利用目的・形態に即し、生存権的財産か否かの基準に基づいて合理的な時価決定がなされるべきであり、生存権的財産たる土地所有についていうならば、その利用目的に照らして利用価格(収益還元価格)を評定する方法により、土地の価格(時価)を決すべきである。

利用価格の算定方法については、売買実例価額を基準とする現行固定資産評価基準より技術的に工夫すべき点が存すると思われるが、価格評価の前提たる財産の基本的性格にかかわる重要な問題である以上、徴税の便宜論を根拠に現行方式を合理的として採用することは許されない。

<4> 以上述べたとおり、自治省告示の定める現行の固定資産評価基準は土地の評価にあたり、当該土地所有の目的や利用形態からみて生存権的土地所有と非生存権的土地所有を区別するという基準を顧慮することなく、一律に売買実例価額を基準とする点において合理性を甚しく欠くものであり、憲法二五条、一三条に違反するものである。

また、固定資産評価基準は、右の如く生存権的土地所有と非生存権的土地所有の区別を顧慮しない結果、租税面において能力に応じた平等すなわち応能負担を無視することにつながり、憲法一四条にも違反するものというべきである。

さらに、地方税法三四一条五号は前述のとおり「時価」とは「適正な時価」をいうとしているのみで、法自体は「適正な時価」評定の基準は示していないが、右の「適正な時価」は、原告が主張するような基準に基づいて評定するものと解すべきであり、もしそうではなく現行固定資産評価基準をもつて地方税法三四一条五号の「適正な時価」評定の基準であるとするならば、地方税法三四一条五号の規定自体憲法二五条、一三条に反する違憲立法たるを免れない。

地方税法三四一条五号の「適正な時価」は原告主張の基準によつて解釈さるべきであるとするならば、現行固定資産評価基準は同規定の「適正な時価」、同法三四九条一項の「時価」に反する違法なものとして効力を有しないというべきである。

以上いずれの点からしても、現行固定資産評価基準が違憲または違法である以上、同基準に基づく本件土地の固定資産評価額および課税標準額の決定は実体的に違憲または違法であるといわなければならない。

<5> 現行固定資産評価基準は建物の評価について再建築費を基準とするものであるが、このような評価方法は、建物につき生存権的財産か非生存権的財産かを全く顧慮しない点において、土地について述べたのと同様、憲法二五条、一三条、一四条に違反するものである。

(2) 立法形式からみた固定資産評価基準の違憲性

<1> 右に述べたように固定資産評価基準は、売買実例価格を基礎とするために著しく不合理なものとなつており、内容的にも違憲性は明らかであるが、次に述べるとおり、立法形式の面からも、租税法律主義に違反し違憲性は明らかである。

<2> 租税法律主義とは、国または地方公共団体が租税を課し、徴収するためには、必ず法律の根拠がなければならない、法律の根拠に基づくことなしには、国民は納税の義務を負うことはないという原則である。憲法八四条は、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」と定めて租税法律主義を採用している。租税法律主義は近代憲法の成立の過程の中で「代表なければ租税なし」という思想のもとに絶対君主などの恣意的な課税に対する抵抗の結果生れた、民主主義の根本原則である。したがつて租税法律主義は、被告が主張するように法律によりさえすればどのような定めでもよいというようなものではない。あくまでも租税の賦課、徴収は適正な手続により、適正な内容のものであることが、憲法上要請されるのである。

<3> ところで、租税法律主義の中心的な内容をなすものとして課税要件法定主義をあげることができる。課税要件法定主義とは誰が、どのような租税について、どのような基礎に基づき、どれだけの税額を負担するかを定める課税要件については、必ず法律をもつて定めなければならないものである。本件訴訟において問題となつている固定資産税の課税標準は、まさに課税要件であるから租税法律主義・課税要件法定主義の厳格な適用を受けることとなり、法律によつて定められることが要求されるのである。

<4> もちろん、課税要件法定主義といつても法律によつて政令等へ委任することを一切禁止するものではない。しかし、当然のことながら委任の仕方は具体的・個別的なものでなければならず、包括的・白地的なものであつてはならない。あくまでも実質的には法律で定めたと言える程度でなければならないのである。しかるに、固定資産税の課税標準について地方税法三四九条一項は「………固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋の基準年度に係る賦課期日における価格………で土地課税台帳若しくは土地補充課税台帳………又は家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳………に登録されたものとする。」とし、法三四一条五号において「価格」について「適正な時価をいう。」とするのみで、あとは法三八八条で、あげて、自治大臣の告示に委ねている。この告示が固定資産評価基準であるが、法三四九条一項および三四一条五号からは、「価格」とは何であるのか、「適正な時価」とは何であるのかについては何ら具体的な指針は与えられておらず、法三八八条はまさに包括的・白地的な委任を行つているものと言わなければならない。これは右に述べた委任立法の限界を越えている。したがつて地方税法三八八条およびそれに基づいて規定されている固定資産評価基準は租税法律主義・課税要件法定主義に違反するからである。

<5> さらに、そもそも地方公共団体は、憲法上固有の課税権を有しており、したがつて地方税についての立法形式は、法律ではなく条例であるから、ここでいう租税法律主義は実は租税条例主義にほかならない。ところが、本件においては、市長が固定資産税の課税基準の基となる評価額を算出決定するにあたつて、その実体的な法的根拠とすべき条例を欠いているのである。この点においても原告の本件土地につきなされた評価額および課税標準の決定を正当なものとした被告の審査決定は違法というほかない。

すなわち、憲法九二条は、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。」とし、九四条で「地方公共団体は、………法律の範囲内で条例を制定することができる」と規定している。これは憲法が、地方自治を制度的に保障するとともに、それを実効あらしめるために、地方公共団体に自主立法権を付与したものである。地方自治が真に機能するためには何よりも財政の確立が必要であることはいうまでもない。財政の自治なくして地方公共団体の真の自治はありえない。その意味において地方自治の不可欠の内容として財政自治権が存するものであり、憲法九二条、九四条は、当然のことながらそのことを前提としているのである。地方税法三条一項は、「地方団体は、その地方税の税目、課税容体、課税標準、税率その他賦課徴収について定をするには、当該地方団体の条例によらなければならない」と規定しているが、これは憲法九二条および九四条の財政自治権の内実としての租税(地方税)条例主義を明らかにしたものにほかならないのである。

したがつて、地方税にあつては条例のみが課税権の根拠となるのであつて、法律である地方税法は、各地方公共団体が制定すべき条例の統一的な標準と枠組を示すものにすぎないのである。

そうだとするならば、固定資産評価基準は、前述のごとく単なる行政規則であつて、法律である地方税法が「適正な時価」を算定する基準を委任しているものにすぎないのであるから、租税条例主義の立場からするならば固定資産の評価にあたつて何ら基準となるべきものではあり得ない。もし固定資産評価基準が課税標準決定の基準となりうるとするならば、条例自身が具体的・個別的に固定資産評価基準に委任を行なつている場合であろうが、市税条例によれば、条例のどこにもそのような規定は見あたらない。

結局、本件評価決定は、法的根拠に基づかずに固定資産評価基準を基準として用いてなされたものであるから、違法であるばかりでなく、租税条例主義に反したものとして、違憲の評価を免れない。

(3) 固定資産税の沿革および性質からみた固定資産評価基準および地方税法三四九条一項の違憲性

<1> 固定資産税は、固定資産―土地、家屋および償却資産―を対象として課される市町村税(地方税法三四二条一項)であり、シヤウブ勧告に基づく昭和二五年の地方税制の改正によつて創設されたものである。それまでは土地に対しては地租、建物に対しては家屋税、また特定の償却資産に対しては船舶税、電気税、軌道税等がそれぞれ別個の税目として課されていた。そして地租および家屋税については、それが土地および家屋の賃貸価格を課税標準としていたためその性質は収益税であると解されていた。

<2> 問題となるのは固定資産税の性質である。現行の固定資産税は、価格を課税標準として課されるものであるから、固定資産の所有の事実に基づいて課される一種の財産税であると解することができる。しかし、財産自体を税源として予定している実質的財産税と考えることはできない。税源としてはむしろ固定資産の所有という事実によつて推認される収益が予定されているとみるべきである。要するに固定資産税は形式的には財産税であるが、実質的には収益税である。したがつて収益税的財産税であると呼ぶべきであろう。このような固定資産税の性質からすれば、固定資産税は固定資産の収益性に着目して課税されなければならない。

<3> 税制調査会が、固定資産税は「本来収益力のあることが予想される土地・家屋および償却資産について、その収益性に担税力を見出して課する税」であると言い(甲第一六号証ノ一および二参照)、自治省が「固定資産税の根底には、財産が本来有する収益力に基づくものであるという考え方があることは、否定できないものと思われます。すなわち固定資産税は地方団体の経費を賄うために、毎年度経常的に住民に負担を求めるものであつて、住民の可処分所得からその負担が支払われることを期待しており、財産を処分してまでその負担を求めることは予定しておりません。この意味では固定資産税の負担は、その財産を所有することによつて通常得られるのであろうと予想される収益を限度としているものと思われます。」と言つている(甲第一八号証ノ一および二参照)のも右のような文脈においてはじめてよく理解しうるのである。

<4> 固定資産税が固定資産の収益に着目して課せられるものであることは地方税法三四八条の規定を分析することによつても明らかである。すなわち法三四八条一項および二項は固定資産税が非課税となる場合を規定しているが、これらはいずれも、およそ収益性の否定されるものであつて、その多くは国民の生存権を保障するために必要・有益なものであり少なくとも資本的財産とはいえないものばかりである。このことから地方税法が収益性のない財産・生存権的財産には固定資産税を課さないという態度を取つていることが看取される。

<5> 固定資産税の性質を右のようにとらえるならば、課税標準となる「価格」は、当該土地・建物の用途に応じた利用価格でなければならない。このように解することにより、「価格」はまさに「適正な時価」といいうるのである。「適正な時価」ということから売買価格を想起しなければならない理由はどこにもないのである。むしろ、固定資産評価基準のように「価格」の算定にあたり売買実例価格を基礎にするようなことがあれば、課税標準が異常な土地の値上りとともに高騰する結果となり、収益性に何の変化も生じないのに固定資産税の負担が重くなるという極めて不合理な事態となる。異常な土地の値上りの中で、土地(生存的財産としての土地)の収益性と取引価格とが激しく乖離していく状況下で、収益性にではなく取引価格に課税標準を連動させる固定資産評価基準が地方税法三四九条一項および三四一条五号に違反することは明らかである。

<6> もし、地方税法三四九条一項および三四一条五号に言うところの「価格」「適正な時価」の意味するところが、固定資産評価基準のとおりであるとするならば、右各条項自体が憲法一四条・八四条および二九条違反の評価を免れないこととなる。

(4) 固定資産評価基準の不合理性と租税法律主義違反

<1> 憲法八四条が定める租税法律主義は適正な手続により租税が賦課・徴収されるべきことはもとより、適正な内容、合理的な内容により租税が賦課・徴収されるべきことを定めるものであるが、現行の固定資産評価基準は以下に述べるとおり、不合理なものであり、かかる不合理な評価基準は適正な内容・合理的な内容によつて租税が賦課・徴収されるべきとする租税法律主義に反するものである。

<2> 固定資産評価基準によれば、宅地の評価方法は、「主として市街地的形態を形成する地域」と、「主として市街地的形態を形成するに至らない地域」に分け、前者は「市街地宅地評価法」、後者は「その他の宅地評価法」に基づいて、宅地の評価数を付設し評価することになつている。そして、「市街地宅地評価法」による宅地の評点数の付設は、次の順序によつている。

(ア) 市町村の宅地を商業地区、住宅地区、工業地区、特殊地区等に区分し、当該各地区についてのその状況が相当に相違する地域ごとに、その主要な街路に沿接する宅地のうちから標準宅地を選定するものとする。

(イ) 標準宅地について、売買実例価額から評定する適正な時価を求め、これに基づいて当該標準宅地の沿接する主要な街路について、路線価を付設し、これに比準して主要な街路以外の街路(以下「その他の街路」という。)の路線化を付設するものとする。

(ウ) 路線価を基礎とし、「画地計算法」(基準別表第3)を適用して、各筆の宅地の評点数を付設するものとする。

また、「その他の宅地評価法」による宅地の評点数の付設の順序は次のとおりである。

(ア) 状況類似地区を区分するものとする。

(イ) 状況類似地区ごとに標準宅地を選定するものとする。

(ウ) 標準宅地について、売買実例価額から評定する適正な時価に基づいて評点数を付設するものとする。

(エ) 標準宅地の評点数に比準して状況類似地区内の各筆の宅地の評点数を付設するものとする。

<3> まず、基準によれば、その選定した標準宅地について、売買実例価額から適正な時価を求めるとしているが、売買実例価額を基本とすることには、以下のような不合理がある。

(ア) 売買実例価格は、既存土地所有者とは無縁の論理で決定される。すなわち、売買実例価額は基本的には商業的な収益をもとに土地を購買する層によつて価額が決定される。

たとえば、銀行、デパート、スーパーマーケット、マンション業者等は、土地の用途転換、高度利用、高容積化をめざし、より高い地価を支払つても収益があげられれば土地を高く購入する。

そして以後は、近隣の既存土地所有者にとつては、そこに土地を所有して住み続ける限り、右地価が自己とは全く無縁のものであるにかかわらず、高い評価があるとみなされる。のみならず、以後、実際に近隣地が同等の価額で売買されるとは限らないのである。

(イ) また、住宅地においても不動産業者が土地を分譲するに際し、画地の規模を操作することによつて単価の引上げをはかることが行われる。

たとえば、八〇坪の土地と家を売ろうとすれば、総額が大きくなり購入者は限られ、土地の単価を高くできない。しかし、これを二〇坪単位で売れば、単価を高くしても売買総額はそれほど大きくはならず、買主は殺到する。つまり、画地の規模を操作することによつて、土地の単価がひき上げられ近隣の既存土地所有者の地価も同一価額であるとされてしまう。

住宅地において、企業者が新たに他の用途のために土地を購入する場合においても、その地価支払能力は既存土地所有者である住民の地価負担能力とは質的に異なり、商業的収益をもとに購入価額が決定される。そして右価額が、以後、近隣地域に影響を及ぼす。

(ウ) 以上のように、土地の売買実例価額とは大都市の土地利用が都心への企業の集中・集積を原動力として、住宅地から商業、業務地へ、低層・低容積から中高層・高容積へ、住宅地の雰細化・過密居住化へと利用更新される中で、つまり、一つには高利潤をあげる方向、二つには過密居住へ向かう中で生じている価格である。固定資産評価基準は、売買実例価額を修正して「正常価格を求める」というが、都市が急速に膨張している時代の売買価格は、すべてが特殊な価格であるといわねばならない。そこに生じている売買実例価格を住民に押しつけ、その土地価格を基に土地を評価するのでは、居住者は安んじて住めないということになる。

なお、国土庁の土地鑑定委員会も、昭和四九年売買実例中心の鑑定評価基準を批判し、収益還元法によるべきことを勧告している。

<4> 路線評価方式、画地計算法にも次のような不合理がある。

(ア) まず、路線価を算出するにあたり、どのような基準で多くの路線価(特に主要な街路以外)を算出するかが明確でない。

(イ) また、路線価は宅地の沿接する街路が都市幹線になるほど、また道路幅員が大きいほど価値が高いとされているが、現実には住宅地にとつては、これらはむしろ居住環境を害するマイナス要因であり、現実との間の矛盾がある。

(ウ) 画地計算法の中に、奥行価格逓減法というのがある。

これは宅地の評価額を街路に近いほど高く、奥に入るほど低く評価する方法である。そのため街路に沿つた奥行の浅い零細店舗や住宅地の評価額が、工場、百貨店、オフイスビルなど大型の土地利用の評価に較べて高くなることがしばしばであり、不合理である。そのため、自治体の中には、この矛盾をなくすため基準とは異なつた奥行価格逓減法を採用しているものがある。

また、住宅公団では区画整理の際の土地評価に際して奥行価格逓減率をそのまま使うと、集合住宅用地としての大型の土地利用を行う関係から、民有地との間にアンバランスを生じ不満の出ることから、特別の逓減率を採用している。

(エ) 行き止まり道路に接した袋地の土地は袋地減価として低く評価することになつているが、道路公害や静けさなどの住宅環境からいえば、逆に袋地の土地こそ最も望ましいのであつて、より高く評価されてしかるべきものである。

現に、現在の住宅地計画は、住宅環境を考慮して袋地を計画的に多くつくる傾向にあり、現在の基準では説明がつかないものとなつている。

<5> 以上のとおり、固定資産評価基準の不合理性は明白であり、この点からも租税法律主義に違反しているといわねばならない。

(三) 本件固定資産評価の違法性

(1) 「どんぶり勘定」の評価決定

前述のとおり、固定資産評価基準は地方税法三四九条一項の「価格」の解釈を誤つた無効なものであり、仮りに同法三四九条の解釈が固定資産評価基準の言う通りであるとすれば同条自体が憲法一四条の規定に違反することになり、いずれにしろかかる固定資産評価基準に基づく本件評価額決定は違憲、違法のものである。

しかしながら、かりに固定資産評価基準自体の違法性ないし違憲性の問題をしばらく措くにしても、本件評価額決定は違法たるを免れがたい。本件評価額決定は固定資産評価基準の各規定にすら反し、以下詳論する通り、売買実例価額等を基準にする形をとりつつ、いわば「どんぶり勘定」で違法になされたものにすぎないからである。

2 固定資産評価基準の評価方法

前述のとおり、市街地宅地評価法による宅地の評点数の付設は、まず所定の方法により標準宅地を選定した後、標準宅地について売買実例価額から評定する適正な時価を求め、これに基づいて当該標準宅地の沿接する主要な街路について路線価を付設し、これに比準してその他の街路の路線価を付設し、ついで路線価を基礎として「画地計算法」(基準別表第3)を適用して各筆の宅地の評点数を付設するものとされている。

そして路線価の付設については、<1>主要な街路について付設する路線価は、当該主要な街路に沿接する標準宅地の単位面積当りの適正な時価に基づいて付設されるが、標準宅地の適正な時価は宅地の売買実例価額から評定するものとされておりその際、ア 売買が行われた宅地(以下「売買宅地」という。)の売買価格について、その内容を検討し、正常と認められない条件がある場合においては、これを修正して、売買宅地の正常売買価格を求める。イ 当該売買宅地と標準宅地の位置、利用上の便等の相違を考慮し、アによつて求められた当該売買宅地の正常売買価格から標準宅地の適正な時価を評定する。ウ イによつて標準宅地の適正な時価を評定する場合においては、基準宅地との評価の均衡および標準宅地相互間の均衡を総合的に考慮することになつている。<2>また、その他の街路について付設する路線価は、近傍の主要な街路の路線価を基礎とし、主要な街路に沿接する標準宅地とその他の街路に沿接する宅地との間における街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他宅地の利用上の便等の相違を総合的に考慮して付設するものとされている。

以上によれば、宅地の評価を行う場合、売買実例価額から正常売買価格を求める手続および主要な街路に付設された路線価に比準してその他の街路の路線価を付設する手続等が評価額の決定をなすうえで重要な要素になつていることが明らかである。とりわけ、売買実例価額を基礎にして土地の評価額を決定する方式を採る固定資産評価基準の立場にあつては、売買実例価額から正常売買価格を算定する手続が公平かつ適正な評価額決定を担保する重要な要素をなすことになる。

(3) 本件評価決定手続の実態

<1> 流山市長による本件固定資産評価の決定手続は固定資産評価基準にしたがつたものではない。

<2> 流山市長は、本件評価に先立つて開かれた千葉県東葛飾支庁の税務課長の主催にかかる東葛税務研究会の決定ないし申し合わせに従つて、土地の評価額決定については相続税を算出する場合の土地の評価額の二分の一程度を目安として評価決定することとしつゝ、昭和五〇年度の評価額をもとにこれに一定の上昇率を掛けて評価額の上限を確定させ、一方売買実例価額を基礎にし、正常売買価格を求めることなく基準地の評価額と均衡させたとして標準宅地の評価額を決定し、これにならつて機械的に本件土地の評価額を決定したものに過ぎない。

また、流山市長が正常売買価格を求めることもせず固定資産評価基準の規定を遵守していないことは後に詳論するところである。

もとより、東葛税務研究会なるものは固定資産評価基準が予定する機関ではなく、他に何らかの法的根拠を有する機関でもない。

のみならず、地方税法は基準年度毎に固定資産評価基準にしたがつて土地の評価をなすことを規定している(法三四九条、三八八条)のであつて、前年度の評価額に一定の上昇率を掛けた金額を上限とし、あるいは基準として評価決定をなすといつた手続は、もとより同法に違反し無効なものである。

流山市長は、本件評価額決定にあたり、固定資産評価基準の規定を遵守せず、売買実例価額と東葛税務研究会の決定ないし申し合わせのみを基準として、いわばどんぶり勘定で本件評価決定をなしたものと言わざるをえないが、かかる態度は単なる法律違反にとどまらず地方自治の自己否定にもなりかねない大きな問題を含んでいる。

以上、流山市長は固定資産評価基準に反し、不公平かつ不適正な本件評価決定を行つたものであるが、違反の具体的内容については項を改めて後述する。

(4) 固定資産評価基準違反の評価決定

<1> 前述のとおり、流山市長のなした本件評価決定は、固定資産評価基準を遵守せずどんぶり勘定で行われたものであるが、固定資産評価基準の各規定に則して違反する諸点の主なものを指摘すれば左のとおりである。

(ア) 正常売買価格を求めない違法

前記のとおり、基準第1章第3節二(一)3(1)によれば、標準宅地の適正な時価を求めるには、売買実例価額について、その内容を検討し、正常と認められない条件がある場合においては、これを修正して、売買宅地の正常売買価格を求めるものとされており、また、「固定資産評価基準の取扱いについて」(自治事務次官通達昭和三八年一二月二五日、自治固発第三〇号)第2章第1節によれば、正常売買価格とは正常な条件のもとにおいて成立する売買価格をいうとされているが、土地の売買実例には不正常な条件のもとにおける売買実例が少なくないとされ特に留意すべき諸点が具体的に挙示されている。

したがつて、流山市長は、本件売買実例地の奥行、間口、形状、面積および売買後の使用目的ならびに売買当事者の職業などのほか右事務次官通達に定める諸点等に特に留意して、売買実例価額が形成されるに至つた事情の中に「正常と認められない条件」があればそれを排除し、修正して正常売買価格を求めなければならないのである。

しかるに流山市長は固定資産評価基準に反し、正常売買価格を算出していない。

なお、かりに流山市長において精通者価格を求めていたとしても、精通者価格は正常売買価格を算出するうえで検討すべき一つの要素に過ぎず、正常売買価格とは全く別のものである。

(イ) 恣意的な「均衡考慮」の違法

被告は、流山市長が標準宅地の正常売買価格を求めるにあたり売買実例地と標準宅地の状況、基準宅地の評価額との均衡を考慮したと主張し、基準宅地の評価額との均衡を考慮するということは基準宅地の評価額と基準宅地の実勢売買価額との割合、比率を考慮するということであると主張する。

しかしながら、前記(2)<1>のとおり、固定資産評価基準第1章第3節二(一)3(1)によれば、標準宅地の適正な時価は、ア 売買宅地の正常売買価格を求め、イ 右正常売買価格から標準宅地の適正な時価を評定し、ウ 右イによつて標準宅地の適正な時価を評定する場合においては、基準宅地との評価の均衡等を総合的に考慮する、ことになつているのである。固定資産評価基準は、あくまでも売買実例地の正常売買価格を求めることを前提にし、そのうえで標準宅地の適正な時価を評定する場合に基準宅地との評価の均衡を考慮せよとしているのである。基準宅地の評価額との均衡を考慮するということは、被告の主張するような「基準宅地の評価額と基準宅地の実勢売買価格との割合、比率を考慮する」というようなことでは全くない。

なお、被告は基準宅地の実勢売買価格は平米当り約一五万円(坪当り約五〇万円)であると主張するが、そうとすれば基準宅地の評価額は五万四、五〇〇円であるから基準宅地の評価額と実勢売買価格との割合は約三分の一であるのに対し、本件土地にかかわる標準宅地の評価額は一万八、二〇〇円であり売買実例額は六万八、〇〇〇円とのことであるからその割合は四分の一にも足りない。かりに基準宅地との評価の均衡を考慮するということが、被告の主張する通り、基準宅地の評価額との実勢売買価額との割合、比率を考慮するということであつたにしても、本件の場合果してどう割合が考慮されたのか極めて疑問である。低額でありさえすれば問題がないといつた性質のものではないのである。

いずれにしろ、流山市長が固定資産評価基準に従わず、「どんぶり勘定」で本件評価決定を行つたことはこの点からも明らかである。

(ウ) 宅地の利用上の便等の相違を考慮しない違法

前述のと通り、固定資産評価基準第1章第3節二(一)3(2)によれば、その他の街路について付設する路線価は、近傍の主要な街路の路線価を基準とし、主要な街路に沿接する標準宅地とその他の街路に沿接する宅地との間における街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等の相違を総合的に考慮して付設するものとされている。

ところで、流山市長は、前記のとおり、本件土地から直線距離にして約二〇メートル離れた位置に選定した標準宅地が沿接する街路と本件土地が沿接する街路とについて、公共施設の接近状況、家屋の疎密度等利用上の利便を総合的に判断し、同一条件と認めた結果、右標準宅地と本件土地の平米当りの評価額を同一とみなし本件土地の評価決定をなした。

しかしながら、右両土地が同一条件にあるとすることは事実に反する。確かに両土地は公共施設接近の状況および家屋の疎密度等の条件は同一とみなしてよいが、右標準宅地が沿接する街路は幅員四メートルであつて純然たる生活道路として利用されているのみであつて通り抜けの車両などは全くなく生活妨害を蒙ることは全くないのに対し、本件土地の沿接する街路は幅員が八メートルないし一一メートル通り抜け道路として車両が多々往来し、朝早くから夜遅くまで車公害に見舞われているほか、反対側の宅地には飲食店等が立ち並び夜遅くまで騒音に悩まされ生活妨害を多々蒙り時に安眠を妨害されているのが実態である。勤労者にとつては、夜間安眠を妨害されることなく安心して休息のできる宅地とそうでない宅地とでは大きな相違があることは明らかである。

従つて、「宅地の利用上の便」に大きな相違が存することは明らかであつて、いかに考慮したところで両土地が同一条件にあるということはできない。本件土地は「宅地の利用上の便」の相違があるにもかかわらずこれを無視され不公平かつ不適正に過大評価されている。

<2> 被告の主張に対する反論

被告は、本件評価額は売買実例価額の約四分の一になつているのであるから高すぎることはなく、従つて本件評価決定は適法である旨主張するかのようであるが、固定資産評価基準にしたがわない評価決定はいかなる意味においても適法性を付与されることはない。固定資産評価基準を遵守せずに決定された本件評価額が不公平かつ不適正で過大なものになつていることは既にしばしば指摘したところである。

以上、本件評価決定は固定資産評価基準を遵守せず「どんぶり勘定」でなされたものであつて、固定資産評価基準に違反し、その結果、地方税法三八八条に違反することに帰着し違法たるを免れがたいものである。

(5) 本件土地の評価額推移の実態

本件土地の各年度における固定資産税の評価額および固定資産税と都市計画税を含めた税額は、別表(二)のとおりである。

この間、本件土地の利用状況に全く変動はなく、利用上の便が増大したわけではなく、むしろ生活環境は悪化しており、また何らの利潤をもたらしているものでもない。にもかかわらず、その評価額は年々急上昇して原告の税負担を増大させ家計を圧迫している。

昭和四四年から同五一年までの間における原告の所得の上昇は二・九二倍に過ぎないのに対し、同期間における評価額の上昇は一一・八三倍、固定資産税および都市計画税を合わせた税額の上昇は七・六一倍に達し所得の延びを数倍上回つている。流山市長が評価の都度固定資産評価基準にしたがつた適法な評価決定をなさず、前記の如き違法な「どんぶり勘定」による評価決定を繰り返えしてきた結果にほかならない。

(6) 固定資産評価基準にもしたがつていない違法

<1> 原告の所有する本件土地は東武野田線江戸川台駅から北々西方向徒歩約六分の位置に存する。原告は、前述のとおり昭和三六年に本件土地建物を取得して以来ここから都内へ通勤している勤労者であつて、右取得時以来本件土地を専ら自らの居住の用に供しており、今後もこれ以外の用に供する予定はなく売却する予定もない。

<2> 前記のとおり、昭和五一年度における本件土地の評価額は平米当り一万八、二〇〇円とされているが、右江戸川台駅付近の地目山林の土地の同年度における固定資産税価額は別表(三)記載のとおりである。

右各土地は、いずれも道路一本を隔てて住宅地域に接しており、駅からもほど近い位置にあつて、いずれも宅地化されることは時間の問題である。現に右別表(三)1の土地は現在では樹木は伐採されて住宅地および駐車場として使用されている。また、右いずれの土地も薪炭材の伐採等林産物の産出には利用されておらず、宅地転用は極めて容易な状態にある。

したがつて、その所有目的は山林として利用を図ることにはなく、近い将来宅地として利用し、あるいは売却するなどして利を図ることにあることは明白である。実際の取引においては、すでに宅地化されている土地が売買される場合と山林が宅地化を目的として売買される場合とでその代金に差がつくことはほとんどない。

<3> 以上、右各土地と本件土地とは取引価額において差異がなく、また現実の利用の面でも実質的差異がなく、地目の相違があるのみと言わねばならない。本件土地は地目が宅地であるということだけで平米当り一万八、二〇〇円という高額な評価がなされているものにほかならない。むしろ、その利用の形態、租税負担能力等からすれば本件土地の評価額および税額の方が低くて当然であるにもかかわらず、本件土地の方が値上がり待ちの山林よりも二〇〇倍近くも高く評価額が決定されているのである。

かかる不公平かつ不適正に過大な評価額の決定は固定資産評価基準にも違反し無効なものである。

(四) 本件評価決定における手続違反(実地調査の欠陥)

(1) 地方税法四〇八条は、固定資産評価に際し、市町村長に固定資産評価員または同補助員をして「固定資産の状況を、毎年少なくとも一回」実地調査させることを義務づけている。更に固定資産の評価に関する事務職員の任務として、公正な評価をするため「納税者とともにする実地調査、納税者に対する質問」等による調査をなすことを法が直接課している(法四〇三条二項)。

これらの具体的な調査を前提にして、かつその結果に基づいて評価手続に入つていくことが予定されているのである(法四〇九条)。

(2) 右のように法が実地調査、それも納税者とともにする調査を課している趣旨は、固定資産といえども年々、物理的・社会的にも変化があり、それを把握する方法として実地に検分すると同時に、その実情を一番良く知つている納税者からもその実態の説明を受けることが公平妥当な評価にはどうしても必要と考えたからに外ならない。例えば宅地についていえば、固定資産評価基準に掲げられている路線価を付する上で標準宅地との比較考慮の要素とされ「街路の状況」「家屋の疎密度」「宅地の利用上の便宜」などは実地調査および聞きとり調査が必要と考えられるし、家屋の場合は個々別々であるからなお更必要である。右のようにこの規定は手続的面から課税の「公正」を担保する制度として規定したもので、納税者から見れば法定手続の保障の側面を実体法で規定したと評価される重要な規定である。したがつて右評価員なり補助員なりが、ある固定資産の状況がわかつているからといつて安易に省略することは許されない。

(3) しかるに、流山市では右の実地調査を実施せずに評価を行なつており、右は、地方税法四〇八条に違反するものである。それゆえ、評価額の妥当性の有無に関係なく、手続違反に基づく違法として固定資産課税台帳記載の評価額について取消されるべきでありこれを看過した被告の決定も取消されるべきである。

(五) 審査手続の違法性

(1) 被告固定資産評価審査委員会の構成員の不公正

<1> 固定資産評価審査委員会は、制度的には、納税者の納付すべき固定資産税に係る固定資産の価格その他の事項を固定資産課税台帳に登録するという行政行為に対する事後的救済手続として行政審判を行なう第三者機関である。その職権行使の独立性も保障され(法四二三条以下)、審査を行なう場合においては公平な第三者の立場に立つて相対立する両当事者に平等に攻撃防禦の武器と機会も与えなければならない口頭審理方式を原則とし(法四三三条二項)、いわば準司法的手続構造をとつている。

従つて右委員会の委員の構成もこの準司法的手続構造にそくしてなされなければならない。法は、委員の構成について右構造を形式的に担保するために兼職禁止の規定(法四二五条)をおいている。特に法四二五条二項では、当該市町村の請負や当該市町村が経費負担する事業について、その市町村長に対して請負やその請負をする法人の役員になることも禁じている。この趣旨は当該市町村等と委員が利害関係・特に経済的利害関係を持つことを禁止し、制度的公正を保護しようとしたものと解せられる。右規定は請負という事業の代表例を「禁止」として掲げているが、右の法の趣旨は本来的な請負のみならず、ひろく事務として行なわれる経済的ないし営利的な取引契約などすべて含まれると解され、あらゆる経済的利害関係を結ぶものにも適用されるべきであつて言うなれば例示規定的に解釈されるべきであろう。けだし、現代社会の複雑な経済活動は多岐にわたり、それらは請負に勝るとも劣らない経済的利益を市町村から受け、よつて益々市町村とゆ着することが多々あり、かつ予想されるからでもある。

<2> そこで、本件被告審査委員会についてみると次のような問題を含み、前述の趣旨に反すると言わなければならない。即ち、第一に審査委員会の委員長として本件口頭審査およびその裁決にも関与した渡辺数樹委員は、昭和四七年一〇月頃から当流山市の法律顧問弁護士として、流山市から顧問料を審査当時毎月金五~七万円を受領し、市の抱える法律問題にもアドバイスをしたり、市議会で説明に立つたりの行為をなしており、身分的には、市の「非常勤の特別職」として報酬を受領する関係にあつた。このような関係にある者が、第三者的公平であるべき審査委員会に、それも委員長として終始審理を先導していくことは、どのように考えても納得できるものではない。

第二に、当被告の審査委員会の書記に、原告と対立関係にある流山市の総務部課税課課長補佐山沢豊を任命し審理を行つていた。因みに市長の代理人は、右書記の直接の上司である課税課長と総務部長である。

準司法的審理構造を要請されている審査委員会の場合、審査委員の「公正」さが必要であることは勿論、その書記についても一定の身分的独立性を持ちうる者がその職につくことが審理の公正を担保する方法である。書記は裁決書の起案など重要な役割を持つのだからなおさらである。本件審査委員会は委員も書記の構成も全く第三者的公正さを担保できない状態での審理であつたと言わなければなるまい。

<3> 以上、被告審査委員会の構成は重大な瑕疵をはらみ、法的には違法であり、その決定は取り消されるべきものである。

(2) 審査決定の理由不備

<1> およそ行政不服における裁決には理由を付すべきことは行政不服審査法四一条一項に規定されているところである。本件審査決定については特に右規定の準用はされていない(法四三三条七項)が、それは決してその形式内容において自由であることを意味するものでなく、審査請求の趣旨に鑑みると、審査決定に理由を付する所以は、審査申出人をして、決定がいかなる根拠に基づいてなされたかを知らせ、併せてこれに対する争訟の機会を与えることであるから、それに合致した相当の理由を付すことを要すると解しなければならない。

そして右相当の理由とは、固定資産評価の方法は勿論、その計算根拠、即ち宅地等についていえば路線価の設定根拠ないし標準宅地選定根拠等の明示をも必要である。蓋しそうでないと最終的に自らの土地が、どうしてそのように評価されたのか不明のままであつて、申出人らにその後の攻撃防禦の方法が具体的にとれないからである。

<2> ところで、本件について審査決定の理由をみると、理由第一点については、自治省の告示等のとおり行つたという抽象論であり、同第二点についても、申出人が不公平であることを論じて自らの固定資産の評価額について不満であり、高額すぎないかと申立てているのに、何ら具体的に答えることなく、形式的に地目別評価方法を採つているというにすぎず、立法政策の適・不適を争うものなどと曲解をし、観点のことなる理由を付すにとどまつている。第三点についても何ら具体的説明がない。

<3> 以上のように、抽象的で何ら具体的計算根拠を付さない決定書は全く理由を付していないのに等しいのであつて、この点に重大な瑕疵があり取消を免れない。

5  以上、いずれの点からみても、本件決定は違法であるから、その取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4、5は争う。

三  抗弁(本件決定の適法性)

1  本件決定に至る経緯

(一) 流山市長は、原告所有にかかる本件土地建物に対する昭和五一年度の固定資産税の評価額および課税標準額を、別表(一)のとおり決定し、これを昭和五一年度固定資産課税台帳に登録し、昭和五一年四月一〇日から同年四月三〇日までの間、縦覧に供した。

(二) 原告は昭和五一年五月一〇日、右登録事項に不服があるとして、被告に対し審査の申出をなした。

右審査申出の理由の要旨は(1)原告は本件土地、建物を居住の目的でのみ所有しており、売買価格は存在し得ない。にもかかわらず、売買価格を類推し、土地の評価額を算定したのは納得できない(2)地目の違いだけで、流山市平方上台一二〇九番地その他の土地と本件土地の評価額がはなはだしく違うのは不合理であり、違法である(3)本件家屋について、再建築評価方式をとつているにもかかわらず、前回の評価額と同額であるのは理解できないというにあつた。

(三) 右審査申出を受けた被告は、約二ケ月間にわたり慎重に審査した結果、流山市長がなした本件土地、建物の固定資産の評価は「固定資産評価基準」に定められた手続にしたがつて評価、決定されたものであり、適正妥当であるとの結論に達し、昭和五一年七月一〇日開催の委員会において、原告の審査申出を棄却することに決し、その旨同月二〇日原告あて文書にて通知をなした。

2  固定資産評価基準に基づく評価

(一) 租税法律主義

租税は、国家権力により国民から金品を強制的に徴収するものであるから、国民の消極財産に属する。憲法二九条二項は、「財産権の内容は、公共の福祉に適合するように、法律でこれを定める」と規定しているが、財産権とは積極財産と消極財産の両者を含むものと解すべきである。

すべて、租税は、国および地方公共団体が行政を執行するための財源に充てるために徴収されるものであつて、公共の福祉のために使用されるものである。現行税制のもとにおいては、高額所得者に対して累進課税がなされているが、累進課税が憲法一四条に違反するものではないことは、それが公共の福祉に適合するからである。

更に、憲法八四条は、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と規定する。同条は、租税法律主義、すなわち「法律なければ租税なし」という、近代憲法上の課税原則を宣言したものであるが、同条の解釈については、つとに最高裁判所大法廷判決(昭和三〇年三月二三日・民集九巻三号三三六頁)によつて、「日本国憲法の下では、租税を創設し、改廃するのはもとより、納税義務者、課税標準、徴税の手続はすべて法律に基づいて定められなければならないと同時に法律に基づいて定めるところに委ねられていると解すべきである」という解釈が確立されている。固定資産の評価額は、課税標準である(法三四九条)から、評価額の決定の手続、内容については、法律でどのような定めをするかは地方税法その他の法律の定めるところに委ねられているのである。

右大法廷判決の事案は、法三四三条、三五九条の合憲性が争われたものである。この規定により、固定資産税の納税義務者を一月一日現在において不動産登記簿に所有者として登記されている者とするという、いわゆる形式課税の原則が採用されたのであるが、民法上の真実の所有権者を納税義務者としないことは憲法一一条、一二条、一四条、二九条、六五条に違反するという主張に対して、右判決は、「地方税法が地租を廃して土地の固定資産税を設け、そして所有権の変動が頻繁でない土地の性格を考慮し、主として徴税の便宜に着眼してその賦課期日を定めることとしても、その当否は立法の過程において審議決定されるところに一任されているものと解すべく、従つて一月一日現在において土地所有者として登録されている者を納税者と確定し、その年度における納期における所有権を有する者であると否とを問わないこととした地方税法第三四三条、第三五九条は前記憲法の諸規定に適合して定められていること明らかである」と判示している。

このように、租税法律主義の効果として、法律で規定された以上、憲法違反をもつて非難する余地は存しないのであつて、納税者は法定された租税負担の均衡、賦課方法の適否等を争うことは許されないのである。

(二) 固定資産税の本質

固定資産税を収益的財産税とするか利用的物税とするかは、立法政策の問題である。旧地方税法においては、固定資産税の前身である地租は、後者の性格をもち、賃貸価格価を課税標準としていた。

しかしながら、税の性質や課税標準のみ論ずるのは早計であつて、税率とあわせて考えることが必要である。現行の固定資産税の標準税率は一・四パーセントであるが、旧地租の税率は宅地一〇パーセント、その他の土地三〇パーセントという高率であつた。

課税標準と税率は、国民の税負担を決定するについて車の両輪ともいうべき関係にあつて、両者は同時に地方税法によつて規定されるのであるから、本件訴訟の如く前者のみを論ずることは無意味である。

原告の主張は、立法論と解釈論とを混同したものである。

(三) 「価格」の意味

法三四一条五号は、「価格」とは「適正な時価をいう」と規定している。同条は固定資産税に関する用語の意義を定めた通則規定であるから、法三四九条の「価格」が適正な時価を意味するものであることは一点疑問の余地はない。すなわち、「固定資産評価基準は、………土地の価格については、売買実例価額を基準として評価する方法をとつているため近隣土地の売買実例………によつて当該土地に対する固定資産評価・課税標準は当該土地所有者の土地所有目的や土地利用の形態にかかわらず一律的に直ちに影響を受ける仕組となつており、したがつて、たとえば近隣土地の売買実例が高騰すれば当該土地に対する固定資産評価、課税標準も、自動的に引きあげられることになつている」(請求原因4(二)(1)<2>)という原告の主張こそ、まさに地方税法の規定するところであつて、同趣旨によつてなされた固定資産評価は租税法律主義に照し、何らの違法性はない。

(四) 委任規定の適法性

固定資産の評価について、実施機関、評価方法およびその手続をどうするかもまた法律により定められるべきであつて、法律制定にあたりこれをどのように規定するかは国会の裁量に委ねられているのである。

従つて、法三八八条一項に対する原告の非難もまた租税法律主義に照して失当である。

(五) 租税条例主義の点について

流山市は地方税法三条一項に基づく条例として「流山市税条例」を制定し、市税の賦課徴収については右条例による旨を定めている。

右条例は、市税として課する普通税として固定資産税をあげ(条例二条)、条例四八条以下において納税義務者、課税標準、税率等を定めている。

地方税の課税権は、地方公共団体に固有なものではなく、国から付与されたものであるところ、地方税法は三条一項において「地方団体は、その地方税の税目、課税客体、課税標準、税率その他賦課徴収について定めをするについては、当該地方団体の条例によらなければならない。」旨規定しており、結局地方税法と条例とが相まつて地方税制が確立、運用されているのである。

以上のとおり、本件固定資産にかかる賦課処分は、地方税法および流山市税条例に根拠を有するものであり、何ら違法なものではない。

3  本件固定資産評価の適法性

(一) 本件土地の評価

(1) 原告の土地は、「主として市街地を形成する地域における宅地」のうち「住宅地区」にある。原告の土地から約一三〇米離れたところに標準宅地を設定し、その沿接する主要街路に路線価を付設し、その路線価に比準して原告の土地の沿接する街路の路線価を付設した。しかして、右路線価を基礎とし、固定資産評価基準別表第3「画地計算法」を適用して原告の土地の評点数を付設した。

右の各数値は、次のとおりである。

主要街路の路線      一万八、二〇〇点(平方米当り)

画地計算割合附表一により 一、〇〇

原告の土地の評点数    一万八、二〇〇点(平方米当り)

(2) 千葉県から流山市に指示された宅地の指示平均価額により算定した評点一点当りの価格は一円であつた。この価格を評点数に乗じた金一万八、二〇〇円(平方米当り)が原告の土地の評価格である。

評点一点当りの価格の決定は、固定資産評価基準第一章第三節三「評点一点当りの価格の決定及び指示平均価格の算定」に定める手続によつてなされたものである。

(3) ところで、基準宅地とは、最高の路線価を付設した街路に沿接する標準宅地をいい(固定資産評価基準第1章第3節三2(1)、同3(1)参照)、右基準宅地の適正なる時価の算定については、都道府県知事が指定市町村の基準宅地の適正な時価との均衡を考慮し、所要の調整を行うものである。(固定資産評価基準第1章第3節三3(1)参照)。また、右基準にいう基準宅地の評価額との均衡を考慮するとは、基準宅地の評価額と基準宅地の実勢売買価格との割合、比率を考慮するということである。

本件の場合、基準宅地の評価額は金五万四、五〇〇円と決定されているのに対し、実勢売買価格(ただし、右は精通者価格によるものではなく、市の常識に基づく価格である。本件売買実例地について、正式な正常売買価格は算定していない。)は約五〇万円であることから、標準宅地の適正な時価の算定についても、右割合、比率を考慮し(右の他標準宅地相互間の評価の均衡をも考慮すべきことは、固定資産評価基準第1章第3節二(一)3(1)ウが規定している。)、さきに述べた売買実例額の約四分の一をもつて金一万八、二〇〇円と決定したものである。

右の意味において、本件標準宅地の適正な時価は売買実例額よりも低く算定されたものである。

この一事をもつてしても、被告の本件決定が違法であるとして取消されるべきに由なきことは言をまたないところである。

(二) 本件建物の評価

(1) 一般に建物の評価額は、再建築費評点数に経年減点補正率および自治大臣の指示する評点一点当りの価格を乗じて求めるものであり、この再建築費評点数は東京都(特別区の区域)における物価水準により算定された、工事原価に相当する費用に基づいて、その費用に基づいて、その費用一円を一点として表わされており、固定資産評価基準別表第8により、部分別標準評点数に補正項目について定められている補正係数を乗じて求めた、各評点数を合計して求めるものとされている。

なお昭和五一年度から昭和五三年度分の評価は評価基準第2章第4節二の経過措置が適用され、昭和五〇年度の価額に据え置かれている。

(2) 原告の家屋は木造の専用住宅および物置を再建築費評点基準表によりその価格を求めた

右の方式により算定した原告の建物は延床面積一平方米当り専用住宅については一万七、八二七円(昭和五〇年度四、九九七円)物置については一、三〇七円(昭和五〇年度八八八円)であり、評価基準第2章第4節二により昭和五〇年の価額に据え置いたものである。

4  評価手続に関する瑕疵について

(一)(1) 固定資産税の納税者が固定資産評価審査委員会に対して審査の申出をすることができるのは、「その納付すべき当該年度の固定資産税に係る固定資産について固定資産課税台帳に登録された事項………について不服がある場合」(法四三二条一項)に限られる。したがつて、審査の対象もまたこれらの事項に限定されるのである。

固定資産課税台帳の登録事項は、法三八一条一項、三項に規定されている。そのうち、本件訴訟の訴訟物となつているのは、原告所有の土地建物の価格である。されば、その余の事項、たとえば市長が固定資産評価員または同補員に毎年少くとも一回実地に調査をさせたか否か(法四〇八条)、公正な評価をするために市職員が納税者とともにする実地調査、納税者に対する質問、納税者の申告書の調査等の方法によつたか否か(法四〇三条)など評価の手続に関すること自体は、右委員会の審査の対象となるものではなく、審査の対象は固定資産税の課税標準である「価格」が違法に高すぎるか否かという点にしぼられるのである。

(2) なお、地方税法四〇三条二項、四〇八条は訓示規定であり、右条項に違反するからといつて固定資産の評価が直ちに違法となるわけではない。

(二) 本件訴訟は、被告が昭和五一年六月になした決定の取消を求める抗告訴訟である。

抗告訴訟は、行政庁の違法な処分によつて、国民の市民的権利が侵害されもしくは義務が課せられる場合に、当該国民の請求により裁判所が当該違法行政処分を取り消すものである。されば、逆に違法な行政処分であつても、これによつて国民が権利を得または法定された義務を免れた場合において、当該国民が自分が権利を得または義務を免れていることの取消しを求める抗告訴訟は、訴の利益を欠くものである。

しかして、裁判所が行政処分を取り消す判決をするのは、当該行政処分について行政庁の裁量権の逸脱または濫用があつた場合に限られる(行政事件訴訟法三〇条)。

これを本件についてみるに、被告の決定が取消されるのは、原告の土地建物に対する固定資産税の課税標準である「価格」が法三四一条五号、三四九条に規定されている「適正な時価」を超えているにもかかわらず、被告がこれを看過して原告の不服申出を棄却した場合のみである。評価額が適法であれば、被告の本件決定の取消しを求めることは失当である。

5  以上、本件土地建物に関する流山市長の評価は適法であり、これに対する審査申出を棄却した被告の本件決定も適法であるから、原告の請求は理由がない。

四  抗弁に対する認否

本件決定が適法であるとの被告の主張はすべて争う。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで本件決定の適否について検討する。

1  本件決定は、本件土地建物に対して流山市長が行なつた本件評価に関して、原告がその登録について地方税法四三二条に基づく審査の申出をしたのに対して、被告が右申出を棄却したものである。したがつて、本件決定の適否の前提として流山市長の本件評価が適法といえるか、が問題であるから、まず右の点について判断する。

2  本件評価の適否について

(一)  固定資産評価の基準ならびに方法

(1) 地方税法三四九条一項は、「基準年度に係る賦課期日に所在する土地又は家屋………に対して課する基準年度の固定資産税の課税標準は、当該土地又は家屋の基準年度に係る賦課期日における価格………で土地課税台帳若しくは土地補充課税台帳………又は家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳………に登録されたものとする。」と規定し、更に同法三四一条五号は「価格」とは、「適正な時価をいう」と定めている。

右規定にいう「適正な時価」の決定について、同法四〇三条一項は、「市町村長は、第三百八十九条又は第七百四十三条の規定によつて道府県知事又は自治大臣が固定資産を評価する場合を除く外、第三百八十八条第一項の固定資産評価基準によつて、固定資産の評価を決定しなければならない。」と定め、同法三八八条一項前段は、「自治大臣は、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続(以下「固定資産評価基準」という。)を定め、これを告示しなければならない。」としている。そして成立に争いのない乙第二九号証によれば、右地方税法三八八条一項の規定をうけて定められた自治省告示(昭和三八年一二月二五日自治省告示第一五八号)である固定資産評価基準は、固定資産税の課税標準となる土地(宅地)の評価は、売買実例価格から求める正常売買価格に基づいて適正な時価を評定するという方法によるとしている。

そして、昭和三八年一二月二五日自治固発第三〇号各都道府県知事宛自治事務次官通達「固定資産評価基準の取扱いについて」(以下「本件通達」ということがある。)によれば、「固定資産評価基準は、地方税法第三八八条第一項の規定に基づき、固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続について定めているものであつて、同法第三八九条第一項、第四〇三条第一項及び第七四五条の規定により、固定資産税における固定資産の評価及び価格の決定にあたつては、この固定資産評価基準によらなければならないものとされているものであ」り、「市町村は、固定資産税の課税にあたつては、固定資産評価基準の定めるところによつて固定資産の適正な評価を確保するよう努めなければならないもの」とされている(前出乙第二九号証一二二頁参照)。

(2) そこで本件訴訟に必要な限度で、右固定資産評価基準による評価方法を示せば次のとおりである(前出乙第二九号証によつて認める)。

まず土地の評価は現況に基づく地目別に行なわれる(基準第1章第1節一)。

次に宅地の評価方法は、各筆の宅地について評点数を付設し、当該評点数を評点一点当りの価額に乗じて各筆の宅地の価額を求めるものである(基準第1章第3節一)が、その評点を付するについては、市町村の宅地の状況に応じ、主として市街地的形態を形成する地域における宅地については「市街地宅地評価法」により、そうでない地域の宅地については「その他の宅地評価法」によつて付設することとされている(基準第1章第3節二)。

市街地宅地評価法による宅地の評点数の付設は左の順序によつている。

<1> 市町村の宅地を商業地区、住宅地区、工業地区、特殊地区等に区分し、当該各地区について、その状況が相当に相違する地区ごとに、その主要な街路に沿接する宅地のうちから標準宅地を選定するものとする。

<2> 標準宅地について、売買実例価額から評定する適正な時価を求め、これに基づいて当該標準宅地の沿接する主要な街路について路線価を付設し、これに比準して主要な街路以外の街路(以下「その他の街路」という。)の路線価を付設するものとする。

<3> 路線価を基準とし、「画地計算法」(基準別表第3)を適用して、各筆の宅地の評点数を付設するものとする(右別表第3は乙第二九号証の一九頁以下にある。)(以上、基準第1章第3節二(一)1)。

右の標準宅地の選定については、右<1>の宅地の区分をしたうえで、更に住宅地区に限つていえば、高級住宅地区、普通住宅地区、併用住宅地区等に区分し、その各地区を、街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等からみて相当に相違する地域ごとに区分し、当該地域の主要な街路に沿接する宅地のうち、奥行、間口、形状等の状況が当該地域において標準的なものと認められるものを選定するものとされている(基準第1章第3節二2)。

路線価の付設については、主要な街路およびその他の街路に区分し、主要な街路について付設する路線価は、当該主要な街路に沿接する標準宅地の単位地積当りの適正な時価に基づいて付設し、その他の街路について付設する路線価は、近傍の主要な街路の路線価を基礎とし、主要な街路に沿接する標準宅地とその他の街路に沿接する宅地との間における街路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他の宅地の利用上の便等の相違を総合的に考慮して付設するものとされている。そして標準宅地の適正な時価については左のアないしウによつて、宅地の売買実例価額から評定するものとされている。

ア 売買が行なわれた宅地(以下「売買宅地」という。)の売買実例価額について、その内容を検討し、正常と認められない条件がある場合においては、これを修正して、売買宅地の正常売買価格を求める。

イ 当該売置宅地と標準宅地の位置、利用上の便等の相違を考慮し、アによつて求められた当該売買宅地の正常売買価格から標準宅地の適正な時価を評定する。

ウ イによつて標準宅地の適正な時価を評定する場合においては、基準宅地(基準第1章第3節三2(1)によつて標準宅地のうちから選定した基準宅地をいう。)との評価の均衡及び標準宅地相互間の評価の均衡を総合的に考慮する(以上基準第1章第3節二3)。

そして各筆の宅地の評点数は、路線価を基礎とし、「画地計算法」を適用して付設される(右同)。

その他の宅地評価法による宅地の評点数の付設は左の順序によつている。

<1> 状況類似地区を区分するものとする。

<2> 状況類似地区ごとに標準宅地を選定するものとする。

<3> 標準宅地について、売買実例価額から評定する適正な時価に基づいて評点数を付設するものとする。

<4> 標準宅地の評点数に比準して、状況類似地区内の各筆の宅地の評点数を付設するものとする(以上、基準第1章第3節二(二)1)。

右状況類似地区の区分は、宅地の沿接する道路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他宅地の利用上の便等を総合的に考慮し、おおむねその状況が類似していると認められる宅地の所在する地区ごとに区分するものとする(基準第1章第3節二(二)2)。

右の標準宅地の選定は、状況類似地区ごとに、道路に沿接する宅地のうち、奥行、間口、形状等からみて、標準的なものと認められるものを選定するものとする(基準第1章第3節二(二)3)。

そして状況類似地区の標準宅地の評点数は、市街地宅地評価法掲記のアないしウと同様の事由によつて、宅地の売買実例価額から評定する当該標準宅地の適正な時価に基づいて付設するものとされている(基準第1章第3節二(二)4)。

そして各筆の宅地の評点数は、標準宅地の単位地積当り評点数に「宅地の比準表」(基準別表第4)により求めた各筆の宅地の比準割合を乗じ、これに各筆の地積を乗じて付設するものとする。この場合において、市町村長は、宅地の状況に応じ、必要があるときは、「宅地の比準表」について、所要の補正をして、これを適用するものとする(基準第1章第3節二(二)5)。

次に家屋の評価は、当該家屋の再建築費評点数を基礎とし、これに家屋の損耗の状況による減点を行なつて求めることとされている(基準第2章第1節)。

なお、昭和五一年度から同五三年度分の評価については、経過措置によつて同五〇年度の価額に据え置かれている(基準第2章第4節二)。

(二)(1)  ところで、原告は、固定資産評価基準による評価はその内容が違憲・違法である旨主張するので、この点について判断する。

まず、固定資産評価基準は、宅地の価格について売買実例(土地の取引価格)によつて当該土地に対する固定資産評価を求めるもので、当該土地所有者の土地所有目的や土地利用の形態を顧慮することなく算定されるものであるから、近隣土地の売買実例が高騰すれば(正常と認められない条件がある場合はこれを修正するからその限度での補正はある。)、当該土地所有者に売買の必要がなく、またその意思がない場合でも、当該土地に対する国定資産評価、課税標準は自動的に引上げられることとなる。このような事態が生じるのは、現行法上固定資産税が土地、家屋および償却財産の資産価値に着目して課せられる物税(最三小判昭和四七年一月二五日民集二六巻一号一頁参照)として位置づけられていることに起因するものである。

(2)  もつとも、成立に争いのない甲第六号証の一ないし三、第八、九号証の各一、二、第一四号証の一ないし四、第一五号証、第一六号証の一ないし三、第一八号証、第二〇号証の一ないし四、証人早川和男、同和田八束、同鐘ケ江晴夫の各証言ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、固定資産税は昭和二五年シヤウプ勧告に基づく地方税制の改正によつて創設されたものであること、それまでは土地に対しては地租、家屋に対しては家屋税が課されており、それらは土地および家屋の賃貸価格を課税標準とした収益税の性質を有していたこと、シヤウブ勧告においては、固定資産税の性格を、従来のいわゆるレンタル・ベーシス(賃貸価格基準)からキヤピタル・バリユー・ベーシス(資本価格基準)に切り替えるとしたものの、その評価方式は賃貸料を資本還元した資本価格としての地価として求めるものであつたから結果的には、いわゆる収益力還元法に基づくもので収益税的財産税であつたこと、昭和三九年一二月、税制調査会は、同年度から施行された固定資産評価基準に基づく固定資産税のありかたについて根本的な検討を加えたこと、その内容は、市街地において顕著な宅地価格の上昇を直ちに税負担に結びつけることは問題があるので、宅地価格の上昇と宅地収益力との関係、宅地(特に自用宅地)の担税力、地代家賃に及ぼす影響等の諸点を勘案し、課税標準の特例を設けることあるいはこれとともに税率引下について今後検討すべきであると提言したこと(なお、土地・家屋について事業用と非事業用とを区別するという見解に対しては、固定資産税は資産自体の持つ収益性に着目して負担を求める税であるという観点からすれば現に事業の用に供しているかどうかによつて負担に差等を設けることは適当でなく、更に資産を事業用と非事業用とに区分することは課税技術上も不可能に近いとの理由から不適当と結論づけた。)、自治省税務局編地方税入門の説明中には、固定資産税負担の本来のあり方はいかにあるべきかという観点からすれば、固定資産税の根底には、財産が本来有する収益力に基づくものであることは否定できないと記述されていること、売買実例価額を基準にすると、原告主張4(二)(4)<3>掲記の事態が生じかねないこと、路線価方式によると、路線価は宅地の沿接する街路が都市幹線になるほど、また道路幅員が広いほど価値が高くなるが、住宅地にとつては交通の便等増す可能性が強い反面、逆に騒音、振動等が増える可能性があつて居住環境を害するマイナス要因になりかねない場合もあること、画地計算法における奥行価格逓減割合法によると街路に沿つた奥行の浅い雰細店舗や住宅地の評価額が、大型の土地利用の評価に較べて高くなること(そのため、地方公共団体によつては固定資産評価基準とは異なつた奥行価格逓減割合法を採用しているものがある。)、同じく画地計算法では行き止まり道路に接した袋地の土地は袋地減価を行なつて低く評価されるが、道路公害や静けさという住宅環境からいえばかえつてこのような土地が望ましい面も存するところ、これよりも住環境の点では劣る街路沿いの宅地は高く評価される結果になること、以上のとおり認められる。

(3)  そこでまず、原告は生存権的財産権と非生存権的財産権を区別することなく、売買実例価額を基準とする固定資産評価基準は憲法二五条、一三条、一四条に違反すると主張するので、この点について判断する。

既述のとおり、固定資産評価基準は、固定資産税の課税標準となる土地・家屋の評価の算定方法であるところ、憲法上、いかなる課税標準をとるかはすべて法律によるものとされている(憲法八四条)。したがつて課税標準としていかなる評価方法をとるかは立法政策の問題であつて、立法府の裁量に委ねられているところであるから、いわゆる合理性の基準が妥当し、著しく不合理と認められない限りその違憲の問題は生じないものであるといえよう。これを本件についてみると、既述のとおり、売買実例価額を基礎とする固定資産評価基準によるときは、居住用建物敷地として利用する宅地につき、当該土地所有者に売買の必要や意思がなくても、近隣土地の売買実例の高騰に伴なつて(正常と認められない条件については修正が加えられるが、そうでないかぎり)自動的に固定資産の評価が引き上げられるおそれがあり、その結果当該土地所有者は、固定資産税の負担の増加を余儀なくされることとなり、不合理な面の存することは否定できない。しかし、他面、近隣土地の売買実例の高騰には必ず何らかの理由があるのであつて、それが合理的なものであるかぎり、当該土地の価格も当然客観的潜在的に増大していることも否定できないところであり、当該土地所有者は、いつでもその客観的価格に相応する利益を収受しうる地位にあるのであつて、その意味でその利益に対する可能性を潜在的に取得しているという経済的利益を得ているともいえるのである(これを収益力の一種の増大とみれないこともない)。また、税制調査会が指摘するように、右不合理な面については課税標準の特例を設けることあるいはこれとともに税率を引下げる方策によつてその不合理面を改善することが可能であり、現に地方税法三四九条の三の二によれば、住宅用地に対する固定資産税の課税標準の特例を規定して、住宅用地の課税標準については、法三四九条の課税標準となるべき価格の二分の一の額とし、小規模住宅用地(面積二〇〇平方メートル以下)の課税標準は法三四九条のそれの四分の一の額とすると規定して一応の是正措置がとられていること、事業用、非事業用を区別することは前記のように税制調査会が指摘するとおり適当でないこと、現に固定資産評価基準によつて算出された課税標準に基づく本件土地の固定資産税額は年間金一万九、八七五円であるにとどまり、必ずしも多額のものといえないこと(なお、原告の年収(原告本人尋問の結果ならびに右により成立の認められる甲第二二号証によれば、原告の昭和五一年一二月の所得税、社会保険料を控除したのちの給与は金二二万六、一〇〇円であるので、これに公務員に準じたボーナス手当年間四・九月分が加算されるとして年間所得は約三八二万一、〇九〇円程度であることが推測される。)に対する負担の割合をみると約〇・五二パーセントにすぎない)等を勘案すれば、本件評価当時固定資産評価基準が著しく不合理であるとまではいえず、上記の憲法の各条項に違反するものともいえない。この点と関連し、原告は生存権的財産権と非生存権的財産権とを区別すべきであるというが、憲法二九条がかかる区別をしてその保護を定めるべきであるとした十分な根拠はなく、更に憲法一四条、一三条も、常に右両者を区別すべきであるとまでいうものと認められるものではなく、原告の主張も立法政策上の理念にすぎないとの感が深い。証人早川和男、同和田八束の証言、成立に争いのない甲第一号証によつても、これを左右するに足りない。そして立法政策としては(更に詳細な要件を定めることは必要であろうが)、原告主張のように区別することは可能であり、かつ望ましいかもしれない(前述した不合理面の是正も、結果的には主として原告のいう生存権的財産権にあたる土地所有者の利益にはねかえつているといえよう。)が、これも所詮立法政策に帰するものである。本訴における原告の主張立証では、原告のいう右両者の区別に憲法問題を関連づけるのは困難である。

(4)  つぎに、原告は地方税法三四一条五号の「適正な時価」を固定資産評価基準のとおりとすることであれば、同法三四一条五号自体が憲法二五条、一三条に違反する旨主張する。

しかしながら、前記(3)判示のとおり、固定資産評価基準の合憲性が肯認される以上、同法三四一条五号(なお同法三四九条一項の「価格」が適正な時価を意味することは同法三四一条五号により明らかである。)の「適正な時価」を固定資産評価基準のとおりとすることが許されることはこれが課税標準の一内容であることから明らかである。地方税法三四一条五号が憲法一三条、二五条に違反するものではなく、原告の右主張は失当である。

(5)  次に、原告は固定資産評価基準が建物について再建築費を基準とし、当該建物について生存権的財産か非生存権的財産かを全く顧慮しないのは憲法二五条、一三条、一四条に違反する旨主張する。

しかしまず、憲法の諸規定上、生存権的財産か非生存権的財産かによつて保障が区別さるべきことが要請されているとまで認められないことは前記(3)に述べたとおりであるのみならず、建物の評価に関しては、土地について認定したような価格高騰による不合理は認めるに足りる証拠はなく、前記のとおり税制調査会の提言のとおり建物について事業用、非事業用を区分するのは適当とはいえないこと、昭和五一年度における在来分の家屋の評価については軽減措置がとられていること(固定資産評価基準第2章第4節二)、同年度の本件(二)(三)建物の固定資産税額は年間約金六、〇一〇円であり必ずしも多額とはいえないこと(なお原告の担税力―原告の年収額は前記のとおり―からみても不相当とはいえないこと)等を勘案すれば、建物の固定資産評価基準は不合理ということはできず、また、土地に対する固定資産税について前述したときと同様に前記憲法の各条項に反するものではない。

(6)  次に、原告は、固定資産評価基準は立法形式の点からみて、租税法律主義、課税要件法定主義、租税条例主義に反するから違憲である旨主張する(請求原因4(二)(2))のでこの点について判断する。

憲法は、地方自治を保障し、「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる」ものとしている(憲法九四条)。地方公共団体の自治権を保障する憲法の趣旨からいつて、地方公共団体に、その自治権の裏付けとして課税権が与えられるべきことが予想されていることは、当然といつてよいが、右憲法の規定(その他の憲法の諸規定)から当然に地方公共団体に課税権が発生したものと解することは困難である。そして憲法は第八章で地方自治の規定を設けながらも、同時に「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める。」(憲法九二条)と規定していることから(その他憲法九三条参照)明らかなように、地方自治の大綱は、国の法律で定めるのが憲法の建前であり、また実質的な見地からいつても、課税について完全に地方公共団体の自主自律に委ねることは、各地方公共団体間で著しい差異をきたし、国という統一体からみて経済秩序に混乱をもたらすおそれがあるので、国税と地方税との相互の関連を考え、かつ地方公共団体相互間の適当な調整を図る必要もあり、さらにまた、租税法律主義の建前からいつても、地方税についても、その大枠は、法律で定めておくのが適当であるとの観点にたつて地方税法が制定されているものと解される。そして地方税法二条によれば、「地方団体は、この法律の定めるところによつて、地方税を賦課徴収することができる。」と規定し、地方税の賦課徴収の主体は地方公共団体であることを明らかにするとともにその課税権は既述のとおり地方公共団体に固有のものではなく、右地方税法二条により国から付与されたものであり、地方公共団体は、この国から付与された課税権に基づいて地方税を課税することができるものと解される。

したがつて地方公共団体の課税については、国法で一定の規制を加え、これに一定の枠を定めることが許されるし、また地方公共団体相互間の均衡を考えればそれが必要でもある。そして右法律の制限内で、各地方公共団体の実情に即した課税を自主的に行なわしめるというのが憲法、地方税法の建前であるということができる。地方税法三条が「地方団体は、その地方税の税目、課税客体、課税標準、税率その他賦課徴収について定をするには、当該地方団体の条例によらなければならない。」と規定するのは、右の趣旨に基づくものである(原告のいう租税条例主義が、憲法上当然に地方公共団体に課税権が付与され、条例でこれを課税しているという趣旨であれば、その見解はとりがたいものである。)。そして流山市ではこれをうけて流山市税条例(昭和二六年五月三一日条例第八号)を設け(成立に争いのない乙第三〇号証により認められる)、四八条以下で固定資産税の税目、課税客体、課税標準、税率その他賦課徴収について規定をおいているが、固定資産評価の基準に関しては何ら定めをしていない。そこで、自治大臣の告示である前記固定資産評価基準が流山市の固定資産評価について法的に基準たりうるか、が問題となる。

ところで、わが憲法のもとでは、法律の委任に基づく委任命令または法律を執行するための執行命令のみが許されるのである(憲法七三条六号。なお内閣法一一条、国家行政組織法一二条一項参照)が、租税法の分野では、租税法律主義の原則が支配し、課税要件はすべて原則として法律で定められるべきものとされているので、命令によつて定められる事項は、右の原則に牴触しない範囲に限られることになる。もつとも、租税法律主義の原則を徹底する観点からは、できるだけ法律で規定するのが望ましいが、租税法の対象とする経済事象はきわめて多種多様であり、しかも激しく変遷していくので、これに対応する定めを法律の形式で完全に整えておくことは困難であるし、現実に公平課税等の租税原則を実現するためにも、その具体的な定めを命令に委任し、事情の変遷に伴なつて機動的に改廃していく必要があることは否定できない。それゆえ、課税上基本的な重要事項は法律の形式で定め、具体的・細目的な事項は命令の定めるところに委ねることは憲法上許容されているところと解される(ただし、租税法律主義の原則からいえば、命令への委任は、一定の限界があると考えるべきで、法律自体から、委任の目的・内容・程度等が明らかにされていることを必要とし、課税要件についての概括的・白紙的委任のごときは許されないことはいうまでもない。)。

そこで、本件の固定資産評価基準について検討すると、前記のとおり本件固定資産評価基準は自治大臣の定めた告示であり、地方税法三八八条は右基準を自治大臣が定めるべきことを法定しているものであるから(なお地方税の本質については前述のとおり。)、法律の委任に基づく命令であることは明らかである。ところで、固定資産税の課税要件の内容の一つである課税標準については、地方税法三四九条一項で明記し(同法三四一条五号と相まつて「適正な時価」とされている。)、単にその具体的・細目的・技術的な算定基準を自治大臣の告示に委ねたにすぎないものであるから、立法形式の点からいつても、右固定資産評価基準は市町村の固定資産評価にあたつて法的に基準たりうるものである(それゆえ、地方税法四〇三条一項が右評価基準に遵うべきことを規定するのも理由が存する。)。そして、右固定資産評価基準は、固定資産評価の基準ならびに評価の実施の方法および手続を、土地、家屋、償却資産に分けて細目的、技術的見地から詳細に規定して全国的統一基準を定めていることはその内容から明らかであり、前記法令の違法な委任の範囲内にとどまることもまた明らかである。

したがつて、条例自身が固定資産評価の基準との関連について何ら規定をおいていないからといつて(もとより条例中に固定資産評価にあたつては自治大臣の固定資産評価基準に遵う旨の条項を設けることは許されないわけではないだろう。)、本件固定資産評価基準に遵うことは当然適法であり(むしろ現行法では右基準に遵わねばならない(法四〇三条一項参照))、右基準に遵つた評価が違法視されることはない。右判示に反する原告の主張は独自の見解というのほかなく、失当である。

(7)  次に、原告は固定資産評価基準および地方税法三四九条一項は、固定資産税の沿革および性質からみて違憲である旨主張するが、固定資産税の本質を収益税に求めるか財産税に求めるかは立法政策の問題であり、現行法が固定資産税を財産税として位置づけていることは既述のとおりである。そして右の結果予想される弊害については前記二2(二)判示のとおりであるが、右判示のとおりこのような弊害の存在をもつては、いまだ著しく不合理なものであり原告主張の憲法の各条文に違反するとまでは断じきれないから、固定資産評価基準および地方税法三四九条一項、同法三四一条五号をもつて原告主張の憲法各条項に違反するということはできず、かかる主張は失当というべきである。

(8)  更に原告は、固定資産評価基準はその内容が不合理であつて租税法律主義に違反する旨主張するが、既に判示したところから明らかなように、右固定資産評価基準には所論のような違法は認められないから、原告の右主張は失当である。

(9)  以上のしだいで、原告の土地建物の昭和五一年度の固定資産評価に当つて、固定資産評価基準を適用することに違法はない。

もつとも、原告の指摘する、固定資産評価基準適用によつて惹起されうる弊害については、更に続くかもしれない将来の著しい地価高騰いかんによつては―適切な是正措置がとられるならばともかく―放置しえない事態になることもないとはいえなく、その場合には単に固定資産税制にとどまらず、持家政策を基調とする今日の住宅政策が、都市政策をも含めた根本的な見直しを迫られることは予想されうるところであり、その意味では原告の投じた一石は何らかの適切な是正措置を求める誘因として大きな警鐘とはいいうるであろう。

(三)  本件固定資産評価の適否について

(1) 原告は、かりに、固定資産評価基準自体が違法でないとしても、流山市長の本件評価額決定は右基準の各規定に違反してなされたものであつて違法である旨主張するので、この点について判断する。

(2) 成立に争いのない乙第二三号証、証人増田芳男の証言により成立を認めうる乙第一、二号証、第三一号証、証人増田芳男の証言、原告本人の供述を総合すれば、次のとおり認められる。

流山市当局は、千葉県東葛支庁税務課長が主催する東葛税務研究会(構成メンバーは流山市を含む千葉県東葛地区七市町村の固定資産税担当課長である。おそらく法四〇一条一号の一環であろう。なお同条各号参照)における検討を経て、昭和五一年度の流山市の基準宅地(流山市江戸川台東二丁目)の評価を一平方メートル当り金五万四、五〇〇円と定めた(なお、右基準宅地の実勢売買価格は一平方メートル当り約一五万円である。)。その根拠は、右研究会の席上、固定資産税の評価額は相続税の評価額の約二分の一程度が相当である旨協議したこと、前回(昭和四八年度)の流山市の基準宅地(流山市流山四丁目)の評価が一平方メートル当り金四万五、四五〇円であつたことを考慮したことにあつた。

そして、流山市内に七五三の標準宅地を選定した。本件土地は、主として市街地的形態を形成する地域における宅地のうちの住宅地区に区分されるところ、その標準宅地は本件土地から約一三〇メートル離れた地点(以下「本件標準宅地」という。)に設定された。本件標準宅地に関する売買実例価額は一平方メートル当り金六万八、〇〇〇円から一〇万五、〇〇〇円であつた(ただし売買実例地について正式な正常売買価格を算出しなかつたことは、被告の自認するところである。)ので、本件標準宅地の適正な時価を一平方メートル当り金一万八、二〇〇円と定めた(流山市の宅地の評点は一点につき一円であるので、右は評点でいえば一万八、二〇〇点である)。右のように本件標準宅地の適正な時価が売買実例価額をかなり下回つた理由は、前回の評価額に比べた上昇率は最大一・三倍程度が適当である旨千葉県からの指示があつたこと、売買実例価額には将来の投機の面が含まれているから適正な時価の算定については減価するのが適当と考えられたこと、基準宅地や他の標準宅地の評点とのバランスを考慮したこと等を総合的に考慮して導き出されたことによるものであり、右については精密な算出過程は示されていない。

ついで、本件標準宅地の「適正な時価」に基づいて右宅地の沿接する主要な街路について路線価を付設し、その路線価に付設して本件土地の沿接する街路の路線価を付設した。その評点数は本件標準宅地の沿接する街路と同額の一万八、二〇〇点であつた。本件標準宅地の沿接する街路の幅員は四メートル、本件土地の沿接する街路の幅員は約八ないし一一メートルである(したがつて交通の便では一般的には本件土地が優るが、自動車等の騒音・振動被害の点では本件標準宅地が優るということは推定しえよう)という点を除けば、両土地は同一の宅地造成区域内であり、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度等差異はない。

つぎに、本件土地に沿接する街路の路線価を基礎として、画地計算法を適用して本件土地の評点数を算定すると、本件土地の間口一五メートル、奥行き一八メートルで奥行逓減率が一・〇である(固定資産評価基準別表第3参照)ことから、結局本件土地の評点数は一平方メートル当り一万八、二〇〇点(一万八、二〇〇円)を算出した。なお、江戸川台西地区の最低の評点数は一平方メートル当り一万七、五〇〇点であつた。

つぎに本件各建物の評価は、つぎのとおりである。まず本件(二)建物は専用住宅(木造瓦葺平家建)であり、本件(三)建物は物置(木造金属板葺平家建)の各棟であるから基準第2章第1節六1の規定により別表8木造家屋再建築費評点基準表によりその評点数を求め、経年減点補正率(別表9)および自治大臣の指示による評点一点当りの価額(流山市は一円)を乗じてその価格を求め、さらに基準第2章第4節二(既述の軽減措置)により価格を決定した。その計算根拠は別表(四)のとおりである。

(3) そこで本件土地の評価の適否について判断する。右認定事実によれば、本件土地の固定資産評価は概ね固定資産評価基準に依拠しているとはいえても、厳密には右基準どおりなされたとまでいえるかは問題である。すなわち、<1>基準宅地の評価について東葛税務研究会における協議と前回の評価との比較を考慮して決定されている点が問題である。ただ、固定資産評価基準第1章第3節三によれば、基準宅地の適正な時価については、指定市町村か指定市町村以外の市町村かによつて、自治大臣あるいは都道府県知事は、市町村長が評定した基準宅地の適正な時価について検討し、市町村間の評価の均衡上必要があると認めるときは、市町村長が評定した基準宅地の適正な時価について所要の調整を行なうものとされている(法四〇一条一号に定める一形態であろう)から、東葛税務研究会による協議は、法四〇八条一号にいう指導の形式としてなされ、基準にいう調整の発動を事前に予防するための行政指導の一環として行なわれたものと解することができないわけではなく、その場合にも「都道府県知事」に前記の指導ないし調整権限を有すると解される以上、これを背景としてなされる、いわば行政指導の一種として前記の研究会をみることができる。

つぎに基準宅地の評価について前回の評価を考慮したとの点は、後述する標準宅地の評価同様、総合的な考慮がなされたとみられないでもないので、基準宅地の評価自体を、必ずしも違法とまで断定することはできないというべきである。

つぎに、<2>本件標準宅地の評価に当つて、売買実例地について正式に正常売買価格を算出せず、また前回評価からの上昇率を考慮して売買実例価額をかなり下回つて算定したとの点は、固定資産評価基準第1章第3節二(一)3(1)のアないしウを遵守しているかどうかについて問題の余地はあるが、流山市長において売買実例価額から評価額を算出するにあたり、既述のとおり将来の投機面が含まれているとみてそれを減価要因としたことは、右アにおける「正常と認められない条件」がある場合の修正を施したものとみられないでもなく、また基準宅地や他の標準宅地との評点のバランスを考慮していることは右ウの基準に基づく作業とみることができる。また、右ウの評価の均衡というのは全体のバランスの中で総合的に評価するという趣旨であると解されるところ、基準宅地の前回評価からの上昇率が存在する以上他の標準宅地にも自ずとその前回評価からの上昇率ということを総合評価においてしんしやくされうる要素であることは否定できないこと等を勘案すると、右<2>の点は多少問題の存することは否定できないが、右評価をもつて違法とまではいえない。とくに最近―本件問題の時点における土地―とくに東京などの大都会およびその周辺地区における宅地の売買価額の高騰は驚くべきものがあることは当裁判所にとつて公知の事実であり、この高騰した売買価額のうちのいずれまでが「正常と認められない条件」に該当するかはなかなか微妙なものであり、その額はほとんど取引実例の売買価額が―上昇率の鈍ることはあつても下ることはないといつてもよい取引実情に徴すれば、驚くべきほどの高騰した価額がいまや「正常」ともいえるような、いわば全般的に異常な状態にあるともいえるのである。このような現在の状況下においては何をもつて「正常と認められない条件」といえるかは人によつて大いに異なることであろう。しかし固定資産評価基準は、法三四九条にいう「価格」すなわち法三四一条五号にいう「適正な時価」ということに基づいて算出されるべき以上、右のような土地価額の高騰という事実を全く無視することは許されないものではあるが、これをストレートに右「価格」に反映させることも、また「正常と認められない条件」をそのまま肯認することになつて不当であり、だが「正常と認められない条件」が具体的・個別的に明確にすることができない以上、ある程度実際の取引事例に基づく売買価額より相当大巾に減額された形で―したがつてそこにはやや抽象的な裁量的な幅を容認せざるをえない面となつて現われることになる―評価されるのもまた已むをえないものがあり、法もそのことを否定するわけではないのである。

なお、本件標準宅地と本件土地とでは沿接する幅員が本件土地の方が広いことを除いて、他の条件は同等である以上、右両土地の評価点が同様であることをもつて違法といえないことはいうまでもない。なぜならば、路線価方式自体、沿接する幅員が広くなればその評点数も高くなるのが一般であるところ、本件では同等に評価されているのであり、これは路線価自体は高い評価になるべきところ、原告主張のような居住環境のマイナス面を減価要因として考慮された結果であると解されないでもないからである。

以上の説示によれば、本件土地の評価は、必ずしも固定資産評価基準にしたがつてなされたものではないとまで断ずることはできず、違法であるとまではいえないというべきである。

なお、本件土地の課税標準額については、地方税法附則一八条による特例が適用されて、昭和五〇年度の課税標準額に負担調整率一・三を乗じた額となる(本件土地の昭和五〇年度の課税標準額が一三〇万〇、二七五円であることは前出甲第二三号証により認められる)ところ、右によれば昭和五一年度の課税標準額は一六九万〇、三五七円となり、別表(一)の課税標準額を超過することになりこれがむしろ本来の課税標準額というべく、この点で流山市の認定したものは原告に不利益となるものであるからこのことをもつて前記課税標準額の認定を違法として取り消すことは許されないというべきである。

また、建物の評価額および課税標準額は前記認定したところによれば固定資産評価基準にしたがつたものであり適法であることが明らかである。

(4) つぎに、前出甲第二二号証、原告本人の供述により成立を認めうる甲第二三、二四号証、原告本人の供述によれば、本件土地の各年度における固定資産税の評価額及び固定資産税と都市計画税を含めた税額が別表(二)のとおりであること、本件の利用状況が一貫して原告居住建物敷地であること、原告の通勤について地下鉄が開通して多少通勤時間が短縮され、本件土地付近には商店、スナツク、飲食店等ができたものの、沿接する道路の交通量が増加して生活環境にマイナスの面もでてきたこと、原告自身本件土地から、自分で使用し生活するという快適な居住環境に住んでいるという日常生活上の便利および安心感などを除いては他に特別の利潤を得ていないこと、本件土地の評価額はしだいに上昇し本件土地建物の固定資産税に対する原告の税負担が増大し、これが原告の所得の上昇割合を上回つていること、は認められるが、このようなことがあるからといつて、本件土地建物の固定資産の評価を違法ならしめるものではない。この点の原告の主張は認めがたい。

(5) 次に、原告は本件土地に近接する江戸川台駅周辺の地目山林の土地の昭和五一年度の固定資産評価額が著しく低額であつて不公平であるからこれとの対比で本件土地の評価は違法である旨主張するので、この点について判断する。

成立に争いのない甲第二号証、第三号証の一、二、第四、五号証、原告本人の供述によれば、原告主張にかかる地目山林の土地の昭和五一年度における固定資産評価額は別表(三)記載のとおりであること、右地目山林の各土地は江戸川台駅にほど近い位置にあつて、道路一本隔てて住宅地域に接していること、別表(三)2、4の土地は現況雑種地の状況を呈していて薪炭材の伐採等林産物の産出には利用されておらず宅地転用は容易な状態と考えられることが認められる。

ところで、固定資産評価基準(前出乙第二九号証)によれば、評価にあたつてその地目は現況によるべきこととされている(第1章第1節一)のは既述のとおりであり、現況地目山林であつても、宅地のうちに介在する山林及び市街地近郊の山林で、当該山林の近傍の宅地との評価の均衡上、現況地目山林の方法によつて評価することが適当でないと認められるものについては、当該山林の附近の宅地の価額に比準してその価額を求める方法による(固定資産評価基準第1章第7節一)とされているのであつて、原告主張の前記山林の評価額は―かりに相当でないとしても―右評価基準によつて是正されていれば足り、それが是正されていないからといつて、本件土地の評価―これ自体が適法であるのは既述のとおりである―が違法となるものではないから、原告の右主張は失当というべきである。

ただ、ここで一言付言するに、原告のいわんとするところは、おそらく地目山林という名目はあつても、実際上山林としてはもちろん他の社会的需用にも何ら利用されておらず、実質上宅地として潜在的価値を有する大都会周辺の「山林」といういわば宅地たるべき土地について、単に「山林」という名目があるゆえに著しく低廉な固定資産税評価額にしておくのは不当であり違法であるということであろう。税の負担は、あえて固定資産税にかぎらず、何人に対しても公平でかつ平等な基準にしたがつて課税されなければならなく(これによつて税の負担の適正均衡が確保されるのである)、これが租税制度の第一歩である。原告のいうが如き実情にあるとすれば、流山市として速やかに「山林」という名目にかりた土地の実質を検討して税負担の公平平等の実現を図るべきである。ただでさえ税の負担の増大が一般世人に認識されているときである。このようなときには税の徴収に公平平等を欠くことがないかを深く考えるべきことが要求される。古人はいう、「乏しきを憂えず、等しからざるを憂う」と。税の徴収の限界についても一層強く同じことが要求される。原告のいうような事情があるとすれば、税務当局の適切な方法によつて是正されることが望ましく、さもなければ右の不公平ないし妥当を欠く税負担が容認される形で推移するならば、いずれ別個の憲法問題として派生する可能性がないとはいえない。

(6) 次に、原告は本件評価決定において実地調査等の手続が履践されなかつた違法がある旨主張するので、この点について判断する。

<1> この点について被告はかかる手続違反の有無は委員会の審査の対象とならないから、本件訴訟の審査から除外さるべきであると主張するようであるが、固定資産税台帳の登録事項は適法な手続を経てはじめて正確・妥当な登録がなされるのであるから、実地調査など手続が適法になされたかどうかがその登録事項の当否に影響を与えることは明らかであるから、本訴においてこれを審理判断しうることはもちろんである。被告の右主張はとりがたい。

<2> 前出乙第二三号証、証人増田芳男の証言、原告本人の供述によれば、流山市全体で昭和五一年度当時、土地の筆数は八〇、三〇七筆であつたこと、当時の流山市の固定資産担当職員は一四名であつたこと、土地の分合筆、建物の新・増築の登記がなされた物件については法務局からの通知により、あるいは建物については建築確認申請を端緒として担当職員が現地を調査したこと、市内の土地建物の状況については年三回にわけて担当職員が全市内を歩きまわつて主に家屋の新・増築の調査を行ない、また日頃から担当職員は市内の土地建物の状況を見分してその変化に注意していたこと、担当職員は本件土地建物の現況については熟知していたこと、しかし、地方税法四〇三条二項の明記するところの納税者とともにする実地調査は、本件土地建物を含めて、行なわれなかつたことが認められる。

ところで、地方税法四〇八条は「市町村長は、固定資産評価員又は固定資産評価補助員に当該市町村所在の固定資産の状況を毎年少くとも一回実地に調査させなければならない。」と規定して年一回の実地調査すべき旨を定めている。また同法四〇三条二項は「固定資産の評価に関する事務に従事する市町村の職員は、………納税者とともにする実地調査、納税者に対する質問………等のあらゆる方法によつて、公正な評価をするように務めなければならない。」と規定している。

ところで、前記認定にかかる流山市長の固定資産評価の手続では、法四〇八条に定める実地調査は行なわれているとは認めがたい(なお、法四〇八条の規定は単なる訓示規定と解することはできない。市長が本来遵守しなければならない強行規定である)。単に流山市内を年三回にわけて歩き回つたり、担当職員が平常から不動産の状況の変化に留意して見分しているというだけでは法四〇八条の実地調査があるとまでいいがたい。実地調査というからには現地の土地建物に臨んで実状を把握し、固定資産の評価に影響を与えるような変化の有無を確認し、その位置を記載すべきが本来だからである。

もつとも法四〇八条の調査に際しては、必ずしも納税者とともに実地調査をすることは要しないから、法四〇三条二項の各手続をとらなかつたからといつて法四〇八条の実地調査がなかつたというわけではない。ただ、法四〇八条の実地調査に際しては、事情によつては法四〇三条二項(三五三条参照)の規定に基づくことが必要なこともあろう。

ただ、四〇八条の趣旨は、要するに固定資産の実情を的確に把握して適正な価格の評価を可能にするための一手段として規定されたものと解すべきであるから、前記のとおり担当職員が実地調査類似の調査を行なつており、かつ本件土地建物の現状について十分認識していること、流山市の担当職員の人員、既に判示したように本件評価自体実質的に違法とはいえないこと等を勘案すれば、法四〇八条に定める正式な実地調査を欠いたからといつて、本件評価自体が違法として取り消さるべき事由があるというわけではないから、原告の主張は理由がない。

(四)  以上のしだいで、流山市長の本件評価は問題がないわけではないが、結局のところ適法というべきである。

3  審査手続の適否について

(一)  被告委員会の構成員の不公正について

(1) 成立に争いのない乙第七号証、第八号証の一ないし四、第一九号証、第二一号証、第二二号証の一ないし三、証人増田芳男の証言、原告本人の供述によれば、被告委員長として本件口頭審査およびその裁決に関与した渡辺数樹委員は、昭和四七年一〇月ころから流山市の法律顧問弁護士として、流山市から顧問料を毎月五ないし七万円を受領し、市の抱える法律問題にアドバイスをしたり、市議会で説明に立つたりしており、身分的には市の非常勤の特別職として報酬を受領する関係にあつたこと、右の点について原告は本件口頭審理の冒頭でその不適切を指摘したが、原告の言い分は認められず口頭審理がされたうえ本件裁決に至つたこと、被告委員会の書記に流山市総務部課税課課長補佐山沢豊が任命され審理に立ち会つたが、右口頭審理における市長の代理人は右山沢の直接の上司である課税課長と総務部長であつたことが認められる。

(2) ところで、固定資産評価審査委員会は、固定資産課税台帳に登録された事項―これらは一定の手続を経て、結局市町村長によつて決定されるものである―に関する納税者の不服について審査決定するために設置されるもの(地方税法四二三条一項)であり、これはそれを決定した市町村長とは異なる独立した中立的な第三者的な機関としての判断機関であるから、その手続の公正―とくに市町村長からの影響の排除―が確保されなければならないことはいうまでもない。

そして法四二五条が兼職禁止の規定をおき、特に同条二項では委員は、当該市町村の請負や、当該市町村が経費を負担する事業について、その市町村に対して請負やその請負をする法人の役員になることも禁じているのは、右委員の中立的第三者的機関としての行動と審査に行なわせ易くするようにするとともにその職務執行の公正を担保する趣旨である。

そこで、固定資産評価審査委員が市の非常勤特別職としての顧問弁護士であることが同条に違反するものといえるか、について検討する。ところで、法四二五条二項と同旨の規定は地方公共団体の長について地方自治法一四二条があり(同条は同法一六六条二項で副知事、助役についても準用されている)、同法の解釈として「請負」の意味は民法上の請負の観念より広く、物品納入等の関係まで含まれるとされており(最三小判昭和三二年一二月三日民集一一巻一三号二〇三一頁判例解説一一五事件参照)、沿革的にはいわゆる御用商人であることを禁止する趣旨であつた。

ところで、市と弁護士との顧問契約は、民法上委任契約と解されるから、地方税法四二五条二項の「請負」について地方自治法一四二条同様の解釈にしたがえば、顧問契約をしその報酬を得ていたからといつて地方税法四二五条二項に違反するものではないといわざるをえない。よつてこの点の原告の主張は失当といわざるをえない。

ただ、第三者的機関としてその中立性が要請される固定資産評価審査委員会としては、当該市町村との関係がある人―とくに恒常的に密接な関係のある者―を委員とすることはたとえ法四二五条とくに二項に違反するものではないとしても、必ずしも望ましいものではないということはいえよう。このことは関係市町村が法の趣旨を体し、李下に冠を正さずとの教えのもとで自戒自粛すべきことである。

次に、原告は書記の人選が違法であるというのでこの点について判断する。

成立に争いのない乙第三号証によれば、流山市は昭和二六年九月二六日条例第三二号で固定資産評価審査委員会条例をもつて法四三一条の固定資産評価審査委員会の審査の手続、記録の保存その他審査に関し必要な事項を定めているが、これによると被告委員会における書記の役割は「委員長の指揮を受けて調書を作成し亦委員会の庶務を処理する」ことであつて(右条例四条)、審査申出に対する争訟裁断作用を担当するものではなく、また右四条によればその任命について「市職員(固定資産評価補助員を除く。)のうちから市長の同意を得て委員長が任命する。」ものとされているから、たまたま市長代理人の部下にあたる山沢豊課長補佐を書記に任命したからといつて、違法なことではない。この点に関する原告の主張も理由がない。

(二)  審査決定の理由不備について

(1) 原告は、本件決定書の理由は抽象的で何ら具体的な計算根拠が付されていないから違法である旨主張するので、この点について判断する。

(2) 前出乙第二三号証、成立に争いのない乙第五号証の一、第二五号証、第二六号証の一、二、第二八号証の二によれば、次のとおり認められる。

原告の本件審査申出の趣旨および理由の要旨は、<1>本件土地は居住のみの目的で所有しているから売買実例価格は存在しないにかかわらず、未実現の交換価値を類推した土地の評価で算定している、<2>仮に固定資産評価基準によるとしても、本件土地の評価は、地目山林の周辺の三筆の土地の評価と著しく異なり不合理である、<3>家屋について再建築評価方式をとつているにかかわらず、前回の評価額と同額なのは理解できない、というものであつた。これに対し、本件決定は、その理由をタイプ三頁にわたり原告の各主張毎に項を分けて、要旨<1>関連条文を示したうえで、現行法上固定資産評価に関しては固定資産評価基準によるべきこととされており、右基準によれば土地の評価は、売買実例価額から求める正常売買価格に基づいて適正な時価を評定する方法をとつているから原告の主張は現行固定資産税の課税の仕組みといつた立法政策の適、不適を争うものにすぎないから採用しえない、<2>地目山林の評価額との差異は固定資産評価基準に起因するものであり<1>同様立法政策上の適、不適を争うものであり、流山市が固定資産評価基準による評価を行なつている以上違法の問題を生ずるものではないとし、更に本件土地の評価については、口頭審理の手続に顕出された資料等によれば、市街地宅地評価法に基づいて価格を決定したことが認められるとし(ただし決定書において具体的な計算根拠は示されていない)、<3>当口頭審理の手続に顕出された資料等により、固定資産評価基準によれば、評価にあたつて求める適正な時価は、家屋にあつては再建築価額を基準として評価するものであるとされ、自治大臣の指示(昭和五〇年一二月二二日自治固一三五号)するところによれば昭和五〇年新築分より、木造については一・五を乗じて評価額を求めるとされ、ただ同評価基準第4節第二項の経過措置により、昭和五一年度における在来分の家屋に限つては、新評価基準により再評価を行なつた価額が、当該家屋の昭和五〇年度の価額を超えるものについては、当該昭和五〇年度の価額によつて、その価額を求めるものとされているから、原告の本件各建物の昭和五一年度の評価額が同五〇年度と同一である旨説示されている(ただし具体的な計算根拠は示されていない。)

なお、口頭審理では、具体的な固定資産評価の方法、計算根拠(本件宅地評価に関してその評点数、標準宅地の売買実例価額、評点数等、路線価等)の具体的数値が示されていた。以上のとおり認められる。

(3) ところで固定資産の評価に関する審査決定の理由附記につき、地方税法四三三条七項は、特に行政不服審査法四一条一項の規定の準用を明記していないが、審査請求の性質等からみて、相当の理由を附することを要するものであり、右相当の理由とは、一般的には審査申出人が決定の結論に至る根拠を具体的に知り得る程度の方法、計算根拠に関する具体的な説示を要することと解される(東京高判昭和四五年五月二〇日行例集二一巻五号八一三頁参照)。ところで本件についてみると、本件土地についての原告の審査申出の理由が前記のとおり評価に関する基本的なあり方ないし固定資産評価基準そのものに由来する評価の差異の不合理を主張するものであつて、直接には本件土地の具体的な評価の数字の争いを理由とするものではなかつたから、本件決定も原告の主張に直接答える形で理由が示され、評価の方法、計算根拠に関する具体的数字を示していないという特別の事情があつたから、前記の一般的原則をもつて律するわけにはいかない。したがつて本件決定は原告の申出た主張についての判断としては不備があるとは認めがたい。本件決定がたとえ本件土地の点についての評価の方法、計算の根拠に関する具体的説示を欠いたとしても、原告のこの点の不服事由を明示していなかつたのであり、このことをもつて本件決定理由の違法をいうのはあたらない(のみならず、本件決定の記載中には計算根拠に関する具体的な説示は示されていないものの、本件土地の評価の方法については固定資産評価基準にしたがつて算出したものであるとし、口頭審理の手続に顕出された資料等から右が認められるとしており、口頭審理において具体的な計算根拠が示されていることは前記判示のとおりである。原告としては、原告の主張した以上に審理判断を受けたものということができるものであり、その点の手続上の瑕疵をいうことは信義則上からも許されない)。

つぎに本件各建物の評価に関する審査申出に対する理由については、口頭審理の過程でも具体的な計算根拠は示されていないが、建物に関する原告の審査申出の理由が前回の評価額と同額なのが理解できないという抽象的なものにとどまつたから、具体的な数値を示さなくても(前回の評価額については原告自身当然知悉しているはずであることは推測される。)、同額となるべき理由が示されていれば―本件決定がその判断を示していることは前記認定のとおりである―、原告の申出主張に対する決定理由としては十分といえるから、本件各建物の審査申出に対する本件決定の理由にも違法はない。

(三)  以上のとおり、本件審査手続に関しても、いずれも適法というべきである。

三  結論

以上のしだいで、本件決定は適法であるから、原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 奈良次郎 合田かつ子 吉田健司)

物件目録<省略>

別表(一)

評価額

課税標準額

(一)土地

金五一八万九、一八四円

金一四一万九、七一〇円

(二)建物

金四二万五、〇〇〇円

同上

(三)建物

金四、三〇〇円

同上

別表(二)

年度

評価額

税額(都市計画税を含む)

昭和三八年

八八、九五七円

一、四二二円

同三九年

一四二、三三一円

一、七七八円

同四〇年

一四二、三三一円

一、七七八円

同四一年

二二七、七二九円

二、二四八円

同四二年

三六四、三六六円

二、八八〇円

同四三年

四三八、五一四円

三、四五九円

同四四年

四三八、五一四円

三、九七五円

同四五年

八三三、一七六円

五、六九四円

同四六年

一、五八三、〇三四円

八、四〇三円

同四七年

一、九七五、〇九一円

一〇、七六八円

同四八年

五、一〇九、三五〇円

二〇、九四七円

同四九年

五、一〇九、三五〇円

二四、一五〇円

同五〇年

五、一〇九、三五〇円

二八、四二一円

同五一年

五、一八九、一八四円

三〇、二五三円

同五二年

五、一八九、一八四円

別表(三)

所在

江戸川台駅からの距離

(徒歩)

評価額

(平米当り)

1

平方一、二〇九番

約七分

九九円

2

富士見台一丁目一四番一

約一〇分

三、二七五円

3

同二丁目一五番一

約一〇分

三、二七五円

4

江戸川台西三丁目五一番一

約六分

三、九三八円

(本件土地)

約六分

一八、二〇〇円

別表(四)

専用住宅

物置

三六年建築の家屋を新評価基準により再評価した場合

四一年増築の家屋を新評価基準により再評価した場合

三六年建築の家屋を新評価基準により再評価した場合

屋根

一四五、七八二

一二九、八七九

八、九一〇

基礎

五五、五三六

四六、五二四

三、三八五

その他工事

八五、六一八

七一、七二四

外壁

一一〇、六〇九

九二、六六〇

二、九四〇

九七、一八八

八一、四一七

四、五五四

建具

九〇、二四六

七五、六〇一

造作

五七、七五七

五二、九二一

内壁

一三八、八四〇

一二二、五一三

天井

一〇九、五九一

一〇六、六一七

一三〇、五〇九

一一一、六五七

一、七八二

建築設備

六八、〇三一

五六、九九一

合計

一、〇八九、七〇七

九四八、五〇四

二一、五七一

補正率(一、五)

一・五

一・五

一・五

再建築費評点数

一、六三四、五六〇

一四、二二、七五六

三二、三五六

経年減点補正率

〇・四四

〇・五六

〇・三八

一点当り価額

一・〇

一・〇

一・〇

評価額

七一九、二〇六

七九六、七四三

一二、二九五

一、五一五、九四九

一二、二九五

軽減措置

(昭和五〇年度評価額)

四二五、〇〇〇

四、三〇〇

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